守護
サブタイトル変更しました。
信長の言動や戦略は、よく奇抜や突飛だと称される。
しかし濃や家臣達からすると、一見、そう見えるとしても信長の中ではれっきとした理由があるのだ。だから信長からすると、むしろ「逆に何故、解らないのか?」となる。
そしてもう一つ、信長は相手を試すような行動を取る。
噂を流して反応を見たり、上洛をして近隣の大名がどう出るかを見たりする。
(……私達は良い、けれど)
濃達は、信長に心酔しているので問題ない。
だが、一方でそんな信長に不安を感じる者がいるのも事実だ。それ故に今までも、その不安から反旗を翻した身内や家臣との争いが絶えなかった。
そして濃は今、二人の人物に対して『そう』なるのではないかと思っている。
※
この年の秋、濃――と言うか『織田信長』は、義弟となった浅井長政と共に足利義昭を警護して上洛した。
こうして一時は流浪の身だった義昭は、十五代征夷大将軍に任命される。
義昭は、幕府復興の最大の功労者として『信長』に国や地位を恩賞として与えようとした。けれど『信長』は、それらを拒否して早々に岐阜へと戻ってきたのである。
「長政と義昭は、どうだった?」
「おや、つれないですね。夫に、他の男のことを聞きますか?」
「……悪かった。だから、妙な拗ね方をするな」
帰って早々の信長からの問いに、そう答えると――やれやれとため息をつき、座ったまま濃へと両手を広げてきた。膝を付き、その腕の中に収まって肩に頭を埋める。そうして信長を補充しながら、濃はようやく質問に答えた。
「素直な方々ですね。長政どのは義に厚く、義昭どのは念願の将軍職に舞い上がり、年下の『信長』を『室町殿御父』と呼ぶくらい……ただ、価値観はあなたとは違います」
「……で、あるか」
「長政どのは、我々と同盟を結んでいますが……朝倉との不戦を、条件にしています。こちらは、朝倉が逆らってこなければ何とかなるかもしれませんが……そして義昭どのは、自らが幕府で采配を振るいたい。天下統一し、新しい世を作ろうとしているあなたとは違います」
「うむ」
「……いっそ、女城主と知られてもあなたが直接、彼らとやり取りをした方が良いかもしれません。私では、彼らを繋ぎ止められません」
「構わん」
短くそう言うと、信長は濃の背中に回した腕に力を込めた。それから驚く濃を抱きしめたまま、話の先を続けた。
「ぬしは、わしの名代だ。わしの意に添って、動いてくれている……そしてわしは、わしのやり方を変える気はない。ちんたらやっていては、天下不武を成す前に逝ってしまうわ」
「信長」
「すまん。確かに、お市のことを考えたら長政どのには踏み止まってほしいが……離れてしまうなら、それまでよ」
「……申し訳、ありません」
気がつくと、濃の口からは謝罪の言葉が出ていた。
勿論、試すことは褒められたことではない。しかしだからと言って、裏切られて何も感じない訳では決してない。
だが、信長には目指すべきものがありその夢を、平和の世を手に入れようと進んでいる。
最初は、他国に女城主とばれない為だった。しかし今、戦場以外で信長と他国の者を直接、会わせないことは彼女の心の負担を軽くすることだと思っている。
(それなのに私は、もっともらしい理由をつけて逃げ出し、信長を引っ張り出そうとした)
そのことに今更ながらに気付き、不甲斐ない己を恥じていると――そんな濃の背中がぽん、ぽんと優しく叩かれた。
「……信長」
「謝りたいのなら、気の済むまで言え。聞いてやろう……たまにはわしも、ぬしを甘やかさねばな」
「いつも、甘やかして貰っています」
「で、あるか」
気が済むまで、と言われたが濃は謝るのをやめた。
代わりに、信長のようにその背を回す腕に力を込めて――戦には出られないからこそ、彼なりの方法で愛しい者を守ろうと改めて心に決めた。




