01『気になる彼女が可愛くて』~御門晴明(みかどはるあき)編~
御門晴明視点です。
俺、御門晴明は陰陽師だ。
広義の陰陽師育成機関、新陰陽学士院。
通称、アカデミーと呼ばれるこの学校で、俺は陰陽術を学んでいる。
御門晴明と聞いて何か気づくことはないだろうか?
そう、安倍晴明の子孫、土御門家に苗字が似ているし、名前なんてまるっきり同じだ。
ゆえに何らかの関係があるんじゃないかと思ったりもするのだが、俺自身よく分かっていない。
実際の所、俺がこのアカデミーに入学できたのは単なる偶然でしかないのだ。
そんな俺の入学試験の結果は散々なもので、合格ラインギリギリの成績で入学した。
でも入学当初は反省してめちゃくちゃ勉強したんだ。
おかげで入学して最初のペーパーテストの結果は学年トップだった。
周りからは安倍晴明の再来とか、生まれ変わりなんじゃないかと噂され、一躍有名人となった。
なんだ、やればできるんじゃないかと、自分でも調子に乗っていた。
しかし、そんな周りからの期待も次に受けた実技テストによって霧散した。
――――学年最下位。
あり得ない結果だった。
試験はペーパーテスト同様に完璧な手順で行った。
それは試験官の教師が認めるほど完璧な手順だった。
だが術が発動することはなかった。
今までの努力は何だったのだろうか。
悔しくてたまらなかった。
結局原因は分からず。
そして教師達は俺に言った。
「君は陰陽師に向いていない」
ひどい話だ。
周囲の目はこの日を境に変わっていった。
使えない陰陽師だ、安倍晴明の名を汚す者だと暴言を吐かれた。
こうして入学後わずか数日で、俺は落ちこぼれ認定されたのだった。
それからというもの、俺は頑張ることをやめた。
みんなが実技の授業で、
「さあ、各々式神を使役してみましょう」
なんてやっている中、俺は一人で折り紙を折って遊んでいたし、講義中は当然のように居眠りをしていた。
クラスメイトから何か言われても気にしなくなったし、教師も注意すらしなくなった。
いてもいなくてもいいような存在になり果てていたが、なぜか退学しろと言われることはなかった。
俺も俺で不登校になる理由も、自主退学する気もなかったので、懲りずにアカデミーに通い続けた。
そして、そんな窓際部署に追いやられた会社員みたいな生活が半月ほど経ったある日。
大きな転機が訪れた。
訳ありで遅れて入学してきた少女が一人、俺のクラスにやってきた。
しかも彼女は俺の隣の席に座るのだった。
俺はその時いつものように気だるげに机に伏せていたのだが、空席のはずの隣から呼びかけられて顔を上げた。
「初めまして、お隣さん。よろしくお願いします」
透き通るような声であいさつをする少女が、そこにいた。
俺は衝撃を受けた。
なんというか、控えめに言って超絶可愛かったんだ。
天才陰陽師、芦屋冬馬。
俺は彼女に恋をした。
こうして俺には明確な目的ができた。
彼女に会いにアカデミーに行く。
当然よこしまな目的だ。
でも、いいじゃないか。
俺も思春期の男の子だし、好きな女の子に会いたいと思うのは当然だ。
何の目的もなく日々を過ごすよりはよっぽど有意義だし。
そういうわけで、俺はアカデミーに行き、冬馬ちゃんを眺めたり、時折アプローチしたりするのを日課にしたのだった。
それから八か月――――。
季節はあっという間に冬に変わり、その間色々なイベントがアカデミーの中であったような気がするが、僕は相変わらず冬服姿の冬馬ちゃんを眺めていた。
可愛い、可愛すぎる。
夏服姿も良かったけれど、冬服姿も捨てがたい。
ちなみに夏服姿はどんな感じだったかというと、カッターシャツから伸びる白く細い腕が素敵だった。
あのカッターシャツの袖口の隙間とか、もう辛抱たまらん感じだった。
隣の席から覗き込むと、角度によっては……おっと。
これ以上の情報は俺の心の奥に仕舞っておくことにしよう。
とにかく、この八か月で分かったことは、冬馬ちゃんはいついかなる時も可愛いということだ。
結論、冬馬ちゃんは『可愛い』の権化。
そんな冬馬ちゃんの可愛さを知れば知るほど、俺の彼女に対する恋心は強まる一方だった。
アカデミーでの生活から一度は希望を失った俺だ。
冬馬ちゃんの可愛さを知れただけでも俺にとっては幸せに他ならない。
でも、いつしか俺は冬馬ちゃんの恋人になりたいと本気で思い始めていた。
今日は十二月二十三日。
冬休みが間近に迫り、そして明日はクリスマスイブだ。
「そろそろ覚悟を決めないといけないな」