目覚め
肉まんは目覚めた。
ここがどこで自分は誰か分からないが、あんまんを倒すために生まれたのだと本能で感じていた。
「ミ…?」
現状を確認するため、辺りを見回してみる肉まん。周りは草木が生い茂り、そばには30メートルはあるクヌギの木が生えてていて、そして下には無数のどんぐりが落ちている。
ここは森なのかと思い視線を下に落としてみると、白いふわふわしてるものが視界に映る。
見れば見るほどその白いふわふわしたものは、自分の体のように思える。というか自分の体だった。
「ミイ……」
肉まんは放心したのだろうか、傍から見ても憂いているのがわかるほどペシャッとなって潰れている。
しばらく放心したあと、とりあえずどこかに移動しようと思い、肉まんはぺしゃんこになっていた体を元のふわふわした、美味しそうなからだに戻す。
そして目を開け、歩みを進めようとした時に気が付く。自分には足がないと。
どうしようかと思慮するがどうにもいい案が思い浮かばず、頭の中でなげやりにゴロゴロ転がるとそのとき、自分の体が頭の中と同じように転がった。
もしかして…と思い肉まんはイメージで自分の体を前へと進めてみた、そうすると不思議なことに前に進んでる感じはしないがちゃんと前に進んだのだ。
肉まんはこの不思議な感覚に楽しくなり、しばらく調子に乗って移動をしていた。急に眩暈がしてきた。やはりこの体でも動いたら疲れるらしい。
(この体…?)
今思ったがこの体とはなんだ。この世に目覚めてからもうっすらと思っていたが、今さっき自分が生を受けたにしてはどんぐりやクヌギなどの知識がある。
自分の記憶を掘り起こしてみると以前は日本で生きていて、男として生活をしていた、毎日仕事帰りに肉まんをコンビニで買って食べていたなどの記憶が出てきた。
しかし、自分自身のことを思い出そうとすればするほど記憶に靄がかかっていき、うっすらとしか思い出せなくなってきた。
改めて思う。自分の体はなぜこんなふわふわしていて美味しそうなのか、そもそもあんまんを倒すとはどういうことなのか。
どれだけ考えても答えがでない、そのうち肉まんは考えるのをやめた。
「ミフッ!」
よし、今は前に進もうと、肉まんは気合を入れる。
音も立てず、僅かに浮いたまま肉まんがしばらく移動をしていると、だんだんと森が開けてきた。
目の前に広がるのは日本にいた頃によく目にしていた民家が建ち並ぶ。しかしよく目を凝らしてみてみればどの家も最近建てたようなのか、外壁はくすんでなく、黄ばみや汚れ等は見当たらない。
そして奥の方に目をやるとそこには高層ビルがいくつもあり、その中に300メートルをゆうに超えそうなビルもある。
「ミミッ」
まず肉まんは気になっているこの世界について知るために日本にはどこにでもあったコンビニを探すことにした。
この世界の街を歩いてみるとなかなかに新鮮で驚くことがある。人と共に明らかなロボットも歩いているのである。そして自分と似た姿かたちをしているものもいることに安堵する。
車道を走っている車を見てみるとほとんどの車が今はガソリンを使っていないのか全く排気を出していない。
そしてしばらく歩いていると、前方にイレブンセブンと書いてある見慣れた看板を見つけた。
「ミミミ!」
看板だけで肉まんは確信した。これはコンビニだと。
嬉々とした表情でコンビニに入っていく肉まん。新聞を置いてある前まできた肉まんは新聞を手に取ろうとした時、また気が付く。自分には手もないじゃないか。
しかし体を動かしたときみたいに頭の中で手をイメージする。そうしたらミトンのように親指だけがピョコっと出てるもちもした手が生えてきた。
これなら新聞が読めると肉まんは新聞を手に取る。