第二章
そういえば、僕たちの自己紹介がまだだったね。僕の名前は佐伯月臣、N高校の二年生で探偵部の部長でもある。
そして僕の後輩の峰藤由穂、彼女には僕の助手をしてもらっている。
先程の話しに出たように、僕たちは不思議な力を持っている。僕の場合は『憑依』といって、動物の中に自分の魂の一部を挟み込み、その動物の記憶を読み取るというものだ。峰藤のはわかりやすくて、動物と『対話』をすることができるというものだ。
どちらかの力があれば事足りるだろうって?いやいや、そんなことはないよ。僕の力は体力の消耗が激しくてあまり多用できないんだ。それに比べて峰藤はそういう反動が無いからね、彼女に手伝ってもらわないと困るんだよ。
次は僕たちの出会いについて話そうか。
僕と峰藤との出会いは今から数ヶ月前、僕が高校二年生に上がり、峰藤が入学してまもなくの頃だった。
いつも通り一人歩いて下校をしていると、少し先の道端に座り込んでいる女の子を見つけた。同じ高校の真新しい制服を着ていることから新入生だと予想できた。近くなるにつれて彼女が誰かと話している声が聞こえたが、彼女の周りには僕以外の人の姿はない。
「何と話しているんだ?」
僕は気になって、もう少し近づいてみることにした。すると、彼女の足元に丸くて白い毛むくじゃらの物体が見えた。
「……あれは、猫?」
思わず口から漏れた言葉は彼女の耳に届いてしまったようで、肩を一度ビクッとさせてから、肩口ぐらいまである黒髪をフワッと揺らしこちらを振り向いた。
「だ、誰ですかっ」
「いや、すまない。驚かせるつもりはなかったんだ」
「……」
彼女はキュッと腕を胸の前で組むようにして、ジッと僕のことを睨みつけてくる。
これは明らかに警戒されているな。まぁ仕方ないか。
「えー初めまして、僕は二年の佐伯月臣、よろしく」
「……一年の峰藤由穂です」
僕は微笑みながら、峰藤と名乗った女子生徒は警戒心混じりの無表情で互いに自己紹介を終え、僕は早速本題を切り出すことにした。
「会ったばかりでこんな質問するのはどうかと思うけど……」
と、ひと呼吸おき。
「もしかして、君は動物と話すことができるのかい」
「!」
僕の質問は普通の人ならばかばかしいと流すものだったが、峰藤は表情に動揺の色を見せた。
「……っ、だとしたらなんだっていうんですか」
これはアタリかな。
「ふむそうだね。君、探偵部に入らないかい」
「……は?」
「だから、探偵部に入らないかって言ったんだ」
「いや、それは聞こえていましたよ。っていうか探偵部ってなんですか、そもそもどうして私が」
「部には僕一人しかいないし、ちょうど助手が欲しいと思っていたんだ。なにより、君のその力に興味ある。僕と同じく不思議な力を持っている者としてね」
「え、それってどういう……」
「まぁ実際に見てもらったほうが早いかな」
僕はさっきまで峰藤が話していた白い猫の前に座り、猫のその小さな額にそっと右の手のひらを当てる。
「少し覗かせてもらうよ」
意識を手のひらに集中させていくと、自分の中の何かが猫に抜けていく感覚に襲われ、同時に様々な映像と音声が次々と頭の中に流れ込んでくる。
「……ふむ、君は友達作りがあまり上手くいってないようだね。まぁそれは時間が解決してくれるさ。だけど、人と話すより動物と話すより気が楽というのは、それは君が昔から動物と接する機会が多かったからそう感じるのかな」
猫の額から手を離し、峰藤に向き直る。
「な、なんで……私が猫と話していた内容がわかるんですか」
「それが僕の力だ。動物の体の中に魂を滑り込ませ、その動物の記憶を見ることができる。僕はこの力を『憑依』と呼んでいるけどね」
「憑依……ですか」
「僕はこの力を使って探偵をしているんだけど、負担が多くてねあまり多用ができないんだ」
「だから私の力が欲しい、と」
「まぁ協力してくれると嬉しいかな」
「……」
峰藤は少しの間考える素振りを見せ、ゆっくりと口を開いた。
「わかりました、探偵部に入部しましょう。ただし、条件があります」
「本当かい。で、その条件とは」
「私に友達ができるまで、です。友達ができたら部をやめます」
「ほう……それなら安心だ、君は卒業まで僕の助手だね」
「どういう意味ですかっ、というかぼっちで探偵してる先輩には言われたくありません」
「これは一本とられたな、まぁこれからはお互い不思議な力を持っている者同士仲良くしようじゃないか」
僕は笑って右手をさしだす。
「仕方ないですね、せいぜい私に友達ができないことを夜な夜な願うことです」
それに峰藤はあくまで無表情で応え、握手をかわした。