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第九話 射撃訓練

 宇都宮軍学校の生徒が自衛官の訓練に混ぜてもらっているといっても、自衛官が何か特別な訓練をしているというわけではない。その多くはランニングや腕立て伏せ、懸垂などである。今日はそれに加えて、9mmゴム弾を用いた、射撃訓練が行われる日であった。

 

 陸上自衛隊宇都宮駐屯地で、稲城いなぎイナバはM92FSを。水城みずきリナはグロック19を。焔城ほむらぎユウはシグ ザウエル P220(通称9mm拳銃)を。それぞれの愛銃を手に、弾倉をセットする。(武尊二体はトレーラーで引っ張ってきた)

 藁で作られたケルビム級を模した目標は、地上の他、実戦を想定し、かなり高いところにも設置されている。

 

 ケルビム級のいやらしさは数である。目視した天使が数体いるという時点で、その全てに対処するのはかなり難しくなる。

 結論から言えば、ケルビム級は結界にものを言わせて接近し、剣を振るってくるので、距離的に近い奴から順に仕留めればよいことになる。が、その単純な判断でさえも、訓練しておかねば勘が鈍ってしまう恐れがあった。

 

 自衛官の基本は、まず実戦のように訓練し、訓練のように実戦を行うことにある。

 

 イヤープロテクターをつけて、稲城いなぎイナバは物陰から飛び出す。と、同時に、眼前のケルビム級に向けて射撃を行う。本来の純銀爆裂弾であれば結界に接触した瞬間に爆発し、天使の顔面が抉れるのであるが、ゴム弾なのであまり手応えが無い。

 次。物陰に隠れたケルビム級。次。中高度のケルビム級三体。次。高高度のケルビム級二体。次。背後の気配に気付き、稲城いなぎイナバは振り返る。さっきまで居なかったところに、ケルビム級が二体。からくり仕掛けで、不意打ちの演出をしたというわけだ。稲城いなぎイナバはこれも撃破し、訓練を終える。

 

「不意打ちにも動じないか。さすがリトルデビルと言われるだけはある」自衛官たちが褒めちぎる。

「やはり9mm純銀爆裂弾(ヘルファイア)でないと調子が出ない」稲城いなぎイナバは続ける。「超小型近接信管が高価なのはわかるが、ゴム弾より実包を使ったほうがよい訓練になるだろう」

「七歳のくせに生意気なことを言う。まあ、贅沢は全員がちゃんと銃を撃てるようになってからだな……」

 そう。宇都宮軍学校の生徒全員(とはいえ三十名未満だが)が、銃の射撃に長けているわけではないのである。中には今回が初めての射撃であったり、致命的に射撃が下手糞だったり、あるいは休学している黒城くろぎのように、訳あって銃の射撃を諦めている者もいる。

 

「全員が自分のように考えている、自分のように出来ると思ってはいかんぞ」少し年を取った、ひげの生えた軍曹が、椅子に座りながらイナバを諭す。「ついてこれない者を見捨てず、教え助けてゆくことも学ばねばならん」「はい」「分かればよろしい」軍曹は笑って言った。


 帰りは、行軍訓練を兼ねて、走って帰る手筈であった。少し暗くなり、人通りの少なくなった道を、二体の武尊が駆ける。ヘッドライトが道を照らし、曲がり角でウインカーを点灯させ、赤信号でブレーキランプを点す。人の形をしていることを除けば、それは車のようであった。

 

 しかして、それは唐突であった。宇都宮の上空に比較的大型のケルビム級が二体現れたのである。今度は訓練ではなかったので、街には警報が鳴り響いた。それは自衛隊駐屯地からの光でライトアップされ、六枚の羽を以って、悠然と浮遊していた。月あかりの下、ケルビム級の剣は抜き放たれた。武尊二体の武装は、大剣、草薙くさなぎのみ。


 今宵、戦いの火蓋は、切って落とされた。

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