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第七話 武尊のススメ

 対天使人型決戦兵器、武尊ぶそん

 彼は生まれた時より苦悩していた。

 私は誰なのか?

 なぜここに居るのか?

 なぜ自分は自分の意思で動けないのか?

 筋繊維ネットワークは恐ろしいほど高速に思考していた。外部の僅かな振動を音として認識するには耳が必要だった。だが耳が無くとも、フーリエ変換を用いれば外部の音を取り込み分析することは可能だった。

 武尊は自分の名が武尊だということを知った。隣に在る機体もまた、武尊と呼ばれている。自分は複座式、隣の武尊は単座式だそうだった。

 武尊は起動実験を待ちわびる。起動実験のときだけは、視界が広がり、己が全知全能になったような気がするからだ。

 

----

 

 人工筋肉。

 それは天使の死体から取った筋繊維を編みこんで造られた筋肉である。電気を掛けると電圧に応じて急激に収縮し、真水に浸すだけで再利用リサイクルできるその性質は、まるで使ってくださいと言わんばかりの好材料であった。

 ただし問題が無い訳でもない。生体解剖の結果、天使の頭部には脳らしきものが無いことが明らかになったのである。つまり、この筋肉は筋肉であると同時に「脳でもある」可能性があった。筋肉を繋ぎ合わせたら意識が生まれて暴走しました、などという事態になったら洒落にならない。

 

 稲城家当主、稲城マサルはこれをどう使うか迷った。

 迷った末に、部下の稲城ハヤトに一任した。その結果――

 

「人型決戦兵器『武尊ぶそん』だと!? バカな!!」


「人も天使戦から学んだんですよ。こそこそ隠れていっぱい撃てば勝てる。これはそんな単純な戦いではないと」

「20世紀。軍神ハンス・ウルリッヒ・ルーデルが助言したとされる近接航空支援専用機A-10は、その前評判とは裏腹に、敵戦車を撃破し続け、戦場の女神と謳われました。これがそうなる運命であることを祈っています」


「乗員約二名、単座あるいは複座。操縦、マニュアルまたはオート。兵装、30mm純銀爆裂弾仕様GAU-8アベンジャー機関砲……正気か?」


「天使は空を飛ぶんです。空中での機動力勝負では話にならない。頼みのF-22はケルビム級による特攻で大破、A-10は死角からケルビム級の群れに接近され、撃墜されました。残された希望はこの全方位対応兵装の人型兵器だけです」


「で、こいつは飛べるのか?」


「飛ぶ? 冗談でしょう?」


「単体で飛べなくてもいい。ヘリから降下できるように作り直せ。上空から天使どもを叩き落せるように。それと弾丸が切れても戦い続けられるよう、純銀の刃を持つ剣も持たせろ。そうだな……草薙くさなぎとでも名付けるか」


「ヘリから降下、武尊ぶそん草薙くさなぎですか……。まあ技術班としては、最大限努力しましょう」


「部下が優秀で助かる」


----


 対天使人型決戦兵器、武尊ぶそん複座式は、久々に目覚めた。

 

 搭載されたAIが、グラウンド上のランニングコースを提示する。

 オムツをして、痛み止めと酔い止めを飲んだ稲城いなぎイナバと水城みずきリナは、この決して乗り心地が良くない兵器を動かして、自衛隊に「見せつける」という指令を受けた。

 武尊はランニング中の自衛官に合わせて数分歩いた。それだけでも自衛官たちの驚愕ぶりは見て取れた。イナバからの指示で、スピードを少し上げる。完全に自衛官をぶっちぎって、武尊はタッタッタッと器用に歩いてゆく。さらに速度を上げれば、走ることもできるだろう。

 武尊ぶそんはできることなら全力疾走し、校庭でバク転したかったが、その命令は下らなかった。だがやがてそのチャンスも巡って来るだろう。

 

 パフォーマンスは終わり、武尊ぶそんは目を閉じた。

 漆黒の中に、稲城いなぎイナバと水城みずきリナの姿が浮かんでいた。

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