第四話 水城リナ
放課後。屋外倉庫。
かつて第二体育倉庫として使われていたそこには、二体の兵器が鎮座していた。
「まさに秘密兵器ね」
水城リナは対天使人型決戦兵器「武尊」複座式を見上げてそう呟いた。
電子兵装を削って複座にしてあるため、それは少し丸みを帯びたフォルムで、女性的に見えないこともなかった。
「戦果を上げれば、秘密でもなんでもなくなる」
稲城イナバは断言した。
「主兵装は?」「GAU-8アベンジャー。A-10からもぎとってきた」
「弾頭は?」「30mm純銀爆裂弾」
「副兵装は?」「ミサイルポッド。あるいは、大剣、草薙」
「稼働時間は?」「24時間超。おそらく乗っている人間のほうが先に疲労するだろう」
「メンテナンスは?」「筋繊維を取り外して真水に浸す作業が必要だ。およそ三日で疲労物質が完全に消える。予備筋繊維があるから、実質的には交換作業だけだ」
「操作感覚は?」「最悪だ。だがじきに慣れるだろう」
「それで、私に『こんなもの』に乗れと?」
「前線で歩兵として戦うよりは安全だというデータがある」
「そうじゃない。そうじゃないのよ」
水城リナは首を振った。
「乗って欲しいの? 欲しくないの? イナバ君。あなたの率直な気持ちを聞いているの」
「ぜひ乗ってもらいたい。この機体は複座だ。水城リナ、君無しでは動かない」
水城リナはそれを聞いて大爆笑する。何がそんなにおかしいのかと問うイナバに、リナは言った。
「そこは抑揚無しに言うシーンじゃないわ。告白するような調子で言うものよ」
「そうか」イナバは納得したように言った。
「しかし稲城では告白するにもこんな調子で言うのだ」
それを聞いて、また水城リナは大爆笑する。
「いいわ。乗ってあげる。でも髪の毛は邪魔になるわね。切らなきゃいけないかしら」
「その髪は美しいが、切ったほうがいいだろう」
「矛盾しているわね」
「戦果を上げれば、そのうち長髪でも乗れるタイプが開発されるはずだ。必要なら陳情しよう」
「別にいいわよ。私もいい加減長髪に飽きてきたところなの。ちょうどよかったのよ」
水城リナは失恋でもしたような顔をしている。あるいはそれとも、本当に失恋していたのかもしれないが。
「戦争が終わればまた髪は好きなだけ伸ばせるだろう」
「あなた、本当に戦争を終わらせるつもりなの?」水城リナは問う。
「そのための稲城だ」
稲城イナバはどこまでも傲慢だった。傲慢すぎて、純粋に見えてしまうほどに。