第二十三話 第一次東京空襲
米軍の空母打撃群から投射された各六十機、計百八十機の航空戦力は圧倒的であった。
一対の垂直尾翼が特徴的なF/A-18Eスーパーホーネットの兵装、M61A1 20mmバルカン砲(400発)、空対空ミサイルAIM-120 AMRAAM、空対地ミサイルAGM-65 マーベリック、空対艦ミサイルAGM-84 ハープーン――大型のセラフ級も撃墜できる――などなど。これらすべてが純銀弾頭に換装されていた。その改修のためにどれだけのカネが動いたのかと考えると、気が遠くなるほどであった。
とはいえカネを掛けただけあって、その殲滅能力はすさまじかった。一回目の空襲では、まさに撃てば当たるという状態。物陰に隠れるという戦法を取らない天使軍は、格好の獲物と言えた。
アビオニクスには無数のケルビム級とオファニム級が映し出されていた。空対空ミサイルAIM-120 AMRAAMは飛来するケルビム級を次々にロックオンし打ち墜とした。AGM-65 マーベリックも同様にオファニム級を撃破した。無論、ケルビム級にまとわりつかれて撃墜されてしまわないよう、全ての弾を撃ちつくす前に、スーパーホーネットは反転する。だがその前に、目視できたセラフ級に空対艦ミサイルAGM-84 ハープーンを撃ちっぱなしていく勇敢なパイロットたちも居た。
セラフ級はレーダーに映らないとはいえ、目視すれば大まかな位置や方角は特定、入力できる。AGM-84 ハープーンはその指示に従ってジェットエンジンを噴射した。ケルビム級が盾になるも、セラフ級の多くは、この空対艦ミサイルを回避できずにわき腹を銀でごっそりと抉られ撃墜されるに至った。
たまりかねて洋上に出たセラフ級は、海自のイージス艦によって目視捕捉された。イージス艦のシステムが脅威を判定し、純白のSM-2スタンダード艦対空ミサイル2発を発射する。これもまた純銀弾頭へと換装されており、セラフ級に突き刺さり、爆発する。
「目標の約五割が撃墜されました」
「もう五割か」「まだ五割か」自衛隊の士官の中でも意見は大きく食い違った。
通常の軍隊なら確実に敵に投降するであろう甚大な被害であるが、天使軍はそれでも全く動じなかった。
そして、米軍の第一波はほぼ全力であった。第二波は予定されているが、かなりのタイムラグがあった。その間にセラフ級はケルビム級を放出して高度を上げ、ケルビム級は上空に拡散し、次第に手に負えない存在となってしまうだろう。
すなわち、思兼と武尊単座式が突入するタイミングは今しかなかった。迦具土二体と須久奈二体から成る三チームを従えて、東京都北区に展開していた宇都宮軍学校小隊は、埼京線沿いに、山手線西側へと南下を試みていた。
須久奈は次々と空中に浮遊するケルビム級をロックオンし、迦具土はそれらに向けてロングボウ・ヘルファイア Sを撃ちっ放していく。本来三十二発しかミサイルを撃てない迦具土の欠点を補うべく、自衛隊輸送車両がロングボウ・ヘルファイアのおかわりを運んできている。
思兼はふと上空を見る。大型のセラフ級だ。あれを墜とせたら楽になるのだが。思兼は無意識にGAU-8アベンジャーを上空に向け、2秒間――毎秒70発なので、140発である――射撃する。効いているようには見えない。だが、イナバには勘があった。さらに4秒間の射撃で、セラフ級の腹部に穴が開き、爆発四散する。
人型決戦兵器は無意味だ、という台詞もあるだろう。そんなものより純銀弾頭の戦車を作れ、という意見もあるだろう。だが全方位から天使が襲ってくるこの状況下では、とにもかくにも撃って撃って撃ち殺せることが重要だった。
北区、豊島区、新宿区へと進むにつれて、天使の密度は増してきた。ミサイルによる撃墜は続けているものの、隣接してくる天使が現れるようになり、そのときは思兼と武尊のGAU-8アベンジャーが火を噴いた。
東京都西部、あきる野市、青梅市、八王子市、日野市、立川市、武蔵村山市、多摩市などは、第12旅団の担当だった。人類の反攻は、二回目の空襲までに、どれだけの天使を戦場に引き付けておけるかにかかっていた。