第二十二話 活動期到来
そして、ついに天使の活動期がやってきた。天使たちを東京に封じ込める。不可能に思えるその作戦目標を、自衛隊は遂行しようとしている。
思兼の配備は間に合ったのか。支援機グループは、火力支援機 迦具土と策敵支援機 須久奈二十体(四体五チーム)の配備は、間に合ったのか。結論から言えば、配備はかろうじて間に合っていた。
思兼は宇都宮軍学校小隊に配備された。武尊より一回り大きな機体は、少しだけ背の伸びた稲城イナバと水城リナを収納してまだ余りある。
支援機とのデータリンクシステムによって、戦術レベルを超え、戦略レベルへと進化した思兼のディスプレイには、訓練機となった武尊複座式とほぼ同じ、むしろ慣れ親しんだインターフェイスが表示されていた。
武装はおなじみのGAU-8アベンジャー。そして純銀の刃を持つ、結界剣「ヒヒイロカネ」である。
支援機グループ、火力支援機 迦具土と策敵支援機 須久奈は、それぞれ六体ずつ。計十二体(四体三チーム)が配備された。理論上の最大数である二十体には間に合わなかったが、これまでの武尊単座式体制、迦具土と須久奈各二体体制に比べれば、十分な数であるといえた。
オーストラリア、ブリスベンでの反攻作戦は苛烈を極めていたが、米国の膨大な生産力と日本の技術協力により9mm純銀爆裂弾が届き始めると、人類はその持ち前のしぶとさによって天使たちとのゲリラ戦を継続していった。
そして事ここに至って、福音派の中にはあれを天使と呼ぶのはおかしいという意見が出始めた。リセッター仮説――彼らは人類文明の駆逐者であり、神の国の到来を妨害する偽の使徒である。その本質は聖書にある穢れた悪霊なのだ――という説が世論を席巻した。
合衆国大統領は、オーストラリア反攻作戦での善戦をたとえに挙げて、極めて感動的な演説を行った。その結果、国内世論は介入主義に傾き、米軍はようやく重い腰を上げて日本への空母打撃群の派遣を行うに至った。既に純銀弾頭への換装を終えていたF/A-18Eスーパーホーネットは、その打撃力をついに発揮することになったのである。
中国、ロシア、そしてEU各国と英国政府はこの決断を歓迎した。さすがに自国への天使侵攻だけは防ぎたいという思惑が働き、各国は共同で「天使反攻財団(Anti-Angel-Foundation)」を立ち上げていた。それはカネは払うから天使を駆除してくれ、という都合のいい内容のものであったが、それでも人類の総意として天使反攻財団が誕生したことは画期的なことであった。
最前線である埼玉県 さいたま市の他、東京を包囲するように、千葉県 千葉市と船橋市、神奈川県 横浜市と川崎市、相模原市と上野原市 に自衛隊と9mm純銀爆裂弾が配置された。東京の西方の包囲網は第12旅団が担当する。
イージス艦三隻(こんごう型護衛艦二隻、あたご型護衛艦一隻)は、純銀弾頭ミサイルを独自に配備し、東京湾 横須賀付近に浮かんでいた。海上に出ようとする天使たちは、その純銀弾頭ミサイルの洗礼を受けることになる。
米原子力空母 CVN-72 エイブラハム・リンカーン、CVN-73 ジョージ・ワシントン、CVN-76 ロナルド・レーガンの三隻は、いつでも攻撃を開始できるよう、太平洋に展開していた。
「戦争の世界に、銀の弾丸などという都合のいいものは存在しない」小隊長稲城イナバは小隊に向けて、短い演説をした。
「だが人が勇気を持って最善を尽くすとき、後世の人はこう言うだろう。彼らこそが銀の弾丸だったのだ。彼らがいなければ我々は存在していなかったのだと。諸君らが銀の弾丸と呼ばれることを確信している。以上」
「思兼起動」水城リナが続ける。「データリンクシステム、オールグリーン。指揮下の武尊単座式、計十二体(四体三チーム)の支援機の情報が入ってきてる。天使軍の総数およそ千五百! レーダーを埋め尽くしているわ!」
稲城イナバは言った。
「もとより苦戦は覚悟の上だ。人類のおおざっぱな総意として、これより我らは天使を打ち砕く!!」