第二十一話 訓練機
大宮駐屯地から引き上げ、場所は宇都宮駐屯地。
フレームが曲がってしまった武尊複座式は、稲城の技術班にも修理ができず、実戦には投入できなくなっていた。だが使い道が全く無いわけでもなかった。複座式は訓練機としてよみがえったのである。
まず、策敵支援機 須久奈二体、火力支援機 迦具土二体が宇都宮駐屯地に試験配備された。それぞれ単座式で、搭乗するのは自衛官である――とはいえ、大男が乗り込めるようには造られていないが。
策敵支援機 須久奈の主兵装は9mm純銀爆裂弾マシンガンである。GAU-8アベンジャーの30mm純銀爆裂弾とは全く比較にならないが、いちおう接近する小型の天使を撃墜することが可能である。この機体は、搭載された全方位視覚機能により、策敵を支援することがメインとなる。
火力支援機 迦具土の主兵装は純銀弾頭ミサイル、ロングボウ・ヘルファイア Sである。事前のロックオンが必要なこと、ミサイルの数には32発と限りがあることが欠点であるが、各支援機に搭載されたデータリンク機能により、須久奈が発見、ロックオンした敵に向けて、迦具土がミサイルを撃ちっ放す等の戦術も可能となっている。
次いで、武尊単座式もバージョンアップされ、データリンク機能が追加された。単純に言えば、レーダーに映る範囲が劇的に広がる。
最後に、思兼のソフトウェアのベータ版が完成し、武尊複座式にインストールされた。
これにより、データリンク機能の上位機能、統合指令機能が使えるようになった。戦術レベルを超えた戦略レベルで、支援機への指示を出せるようになったのである。
とはいえ個別戦力から、有機体的戦力への転換。それを学び使いこなすことは、一朝一夕では不可能である。
新型機 思兼に乗り込む稲城イナバと水城リナには、事前の訓練がどうしても必要であった。
「須久奈A、Bは先行して情報収集! 迦具土A、Bはビルを回り込んで須久奈からの策敵情報を得てロックオンを急げ!」稲城イナバが指示を出す。
武尊複座式のディスプレイには、思兼エンジンによってシミュレーションされた戦場が映し出されている。機体の操縦系統は思兼方式に切り替えられており、刻々と移り変わるシミュレーション映像によって、操作、指令の結果がパイロットにフィードバックされていた。
「最後の敵を撃破。訓練終了」「お疲れ様。水分補給をしましょう」
稲城イナバと水城リナは、武尊から降りて、訓練の結果を話し合う。やはり同時に把握できる情報には限界があるというのが、二人の見解であった。スペック上は二十体まで従えられるといっても、二人の人間が二十人分の操作を行えるわけではない。自分の機体も合わせて、せいぜい五体が限界である。
「実戦では、おそらく各支援機の自主性に任せた運用が必要になる」
「そうね……指揮下の支援機が二十体もいたら、絶対パニックになるわ」
「支援機に四体ずつのチームを作ってもらって、それぞれのチームへの大局的な指示を行うというのはどうだろうか」
「それはいい案かもしれないわね。四、五チームならなんとか把握できるし」
新型機 思兼一体。武尊単座式 一体。各種支援機 二十体、五チーム。計二十二体の人型決戦兵器。もしそれらを揃え、十分に活用することができさえすれば。
東京奪還作戦も、あるいは夢物語ではなくなるのかもしれなかった。




