第二十話 医務室での戦い
オファニム級の最期の反撃で、宇都宮軍学校小隊には多数の負傷者が出ていた。
その多くは同行していた日赤救護班によって応急処置が施され救われたが、意識不明の重体となった者もいた。これがよりによって、武尊のAI開発を担当していた黒城シュンである。
「どうして……」水城リナは大宮駐屯地の医務室に運び込まれた、黒城シュンのベッドの傍らに座っている。
言葉の続きは出てこない。どうして付いて来たの? などとは口が裂けても言えない。無論、AI開発者として、現地で武尊のAIの挙動を観察したかったのだろう。障害者だから小隊には同行すべきでない、などという理論は、あまりにも酷い差別的思考である。
しかしそれにしても、黒城シュンの果たしていた役割は大きすぎた。彼は稲城家の技術班のゲストメンバーとして、武尊支援機の開発計画や、武尊新型機の開発計画にも深く関わっていたのである。
「……ね……」黒城シュンはうわごとを呟く。
「……おもいかね……」
「……かんせいさせないと……」
シュンの頭に乗ったタオルを交換する水城。そこで、黒城シュンは唐突に目覚めた。がばりと起き上がって、周囲を見渡す。
「僕は……衝撃で意識を失ったのか……」
「シュン君!」
「リナ! なぜこんなところに居る! お前は武尊のパイロットだろう!」
「だって……」
「俺のことは気にせず行け! 行ってイナバと共に戦え!」
「そんな……」
「誇りを持て! 信念を貫け! 行ってお前にしかできぬことを成せ! 決して後ろを振り返るな!」
「ッ!」両手を握り締め、走り去る水城リナ。
「……それでいい」
両手がまだ動くことを確認し、黒城シュンは安心する。 ベッドテーブルに置いてあった、柄の部分が壊れたメガネ型ディスプレイを起動。現在の日時と、各種開発計画の進捗を確認。
しばらくして、黒城シュンは空腹感を覚え、思い立ったようにナースコールを押す。
「僕は……僕にできることをするだけだ。プロジェクト思兼……こいつだけはきっと、完成させる!!」
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武尊複座式は、転倒の衝撃でフレームが曲がっていた。なんとか歩くことはできるが、走ったり跳ねたりはもうできそうにない。
「何がアウトレンジ攻撃だ」武尊の臨時格納庫で、焔城ユウは愚痴る。
「おもいっきり反撃されてるじゃねえか」
それに対して、稲城イナバは言う。
「すまん。小隊が負傷したのは小隊長である僕の責任だ。武尊複座式の破損は残念だが、やむを得まい」
額と顎に絆創膏を貼ったイナバに言われると、無傷のユウは何も言えなくなる。
「ともかく水城リナに怪我が無くてよかった。問題は黒城シュンだが……」
そこに、リナが駆けつける。
「シュン君に意識が戻ったの」ぜえはあと肩で息をしながら、リナが言う。
「そうか……それは良かった」
「でもシュン君は何かやることがあるみたい。おもいかねを完成させなきゃって言ってたわ」
「……それは武尊新型機のコードネームだ」
「新型機?」焔城ユウが問う。
「きたるべき東京奪還作戦に投入される予定の機体だ。統合指令機能が搭載されていて、スペック上は支援機を二十体まで従えることができる」
「武尊複座式が壊れた今、代わりの機体として、開発が急がれることは間違いない。黒城シュンもまた、最前線で戦っているのだ」




