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第二話 転校生

「知ってのとおり、栃木県には伝統的に空港が無い。従って航空機オスプレイの着陸は許可できない」自衛隊栃木地方協力本部は形式的に着陸を拒絶する。

「任務は物資の投下です。投下したあとのことは全てそちらに任せます」

「……了解した。物資の投下を許可する」

「ありがとうございます。栃木県航空管制官殿」

 

 皮肉に満ちたやりとりの後、パラシュートを付けた物資が、栃木県のヘリポートに投下される。

 オスプレイの積載量は従来のタンデムローター式のヘリ、CH46シーナイトと比べ3倍近い。大量の純銀爆裂弾の他にも、軍事機密とされる二つのブラックボックスも投下された。そして、最後に投下されたのが稲城いなぎイナバ七歳である。

 パラシュートがあるとはいえ、後部ハッチから飛び降りるなどという行為は、並みの人間に出来る事ではない。勇気と技量の両輪が無ければ不可能である。

 

「おいおい。最近じゃ子供まで物資扱いされるのか?」

 広がったパラシュートを取り除きながら、イナバは自衛官と会話する。

「そう受け取ってもらってかまわない。僕は稲城いなぎだ。自分は戦略物資だと認識している」

稲城いなぎ……あの超小型近接信管の稲城いなぎか」

「悪いが宇都宮軍学校まで送っていってもらえないか。タクシーを手配する手筈だったが、諸事情で連絡している暇が無かった」

「……ケルビム級との遭遇か?」

「そうだ。先導していたAH-1Sコブラは、おそらく撃墜された」

「そうか……」自衛官は短い黙祷を捧げる。

 

 宇都宮軍学校。天使の襲来と共に、各県には自衛隊に入隊することを前提として、少年兵らを養成する軍学校が作られた。高等学校相当のこれらの学校は、できてからまだ日が浅い。だが、いくら天才的な戦闘力を誇っていたとしても、まだ七歳の稲城いなぎイナバが飛び級で入学できるのはこの学校くらいしかなかった。

 

「宇都宮軍学校に飛び級で入学してきました、稲城いなぎイナバ七歳です。以後よろしくお願い致します」

「稲城……あの稲城か?」「噂の最終兵器か」「まだガキじゃねえか」「しかし戦果は本物らしいぞ」「確度の高い情報だけでも、十体を超える天使を屠っているとか」「我らがエース様か」

 噂でざわつく教室の前方に、一個の空席があった。水城みずきリナの隣の席である。

 先生に促され、イナバはその席に着席して、言い放った。

 

「形式的な挨拶は済ませた。後は普通に話させてもらう。僕は稲城いなぎだ。天使を狩るのが稲城いなぎの仕事だ」

 ぶっきらぼうな発言に、教室はいっそうの喧騒に満ちてゆく。たまりかねて先生が手を叩いた。

「皆さん静かに!」

 イナバは左の水城みずきリナのほうを振り向いて言った。

「髪が長いな」「長くて何か問題でも?」「長すぎる髪は戦闘の邪魔になる」「そういうあなたは髪が短すぎるんじゃないかしら?」

「毎回バリカンで刈っているんだ。稲城いなぎ水城みずきと違って貧乏性なのでな」

 

 水城みずきは伝統ある軍閥である。髪の長さは、プライドの現れなのだろうと、イナバは思った。だが、いずれそのプライドも戦場で打ち砕かれるだろう。

 

 先生は今日の授業を始める。

 

「南極から現れた『天使』たちの打撃力と生産力は強大であり、現在、人類は南半球の各地で転戦を続けています」

「通常、彼らは『結界』を纏っており、物理攻撃が半減あるいは無効化されます。唯一彼らに効く『純銀』を弾頭に込めた『9mm純銀爆裂弾』、通称ヘルファイアは、人類の生存圏、生産拠点に優先的に配備されており、前線への配備が滞り気味です」


「もし沖縄に上陸されたら?」水城リナが問う。

「沖縄には十分なだけの戦力があります」先生は答える。

「天使の実効支配領域への反攻作戦は予定されていますか?」男子生徒が問う。

「それは軍事機密です。知っていたとしても回答できません」


「それじゃあ、人類はいつまで戦い続けなきゃいけないんです? いつか反攻に転じなければジリ貧じゃあないですか」稲城イナバが畳み掛ける。

「勝つか負けるかするまで、いつまでも」

「ナンセンスの極みですね。僕らには勝つしか道は無い。そのための稲城いなぎです」

 傲岸不遜に、イナバは言った。

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