第十三話 群馬への遠足 後
陸上自衛隊新町駐屯地は、群馬県高崎市(前橋市から見て南西)にある、第12旅団の駐屯地である。1962年(昭和37年)に編成された第12師団を母体とし、2001年3月に旅団へと改組された。第12旅団はヘリにより空中機動力を高めた部隊なので、部隊章にはオオワシの絵が描かれている。
遠足の集合時刻は午前六時だったが、遅れる者はいなかった。バスと武尊による移動は順調であり、前橋市を経由しての高崎市入りは、比較的スムーズに行われた。武尊の道路通行を事前に通達していたので、念のために群馬県警の警察車両が先導していた。そのため渋滞には巻き込まれなかったのもありがたかった。
武尊複座式は第12旅団の前で歩き、スピードを上げ、疾走し、ついでにバク転をしてみせた。
稲城イナバは、第12旅団の面々に質問攻めにあった。オムツを穿き、痛み止めと酔い止めを飲んでも、乗り心地が最悪であることを除けば、武尊は十分な戦力になる。戦果を上げれば量産型も配備されることだろう。この発言は、第12旅団に希望をもたらした。
「ヘリからの降下は可能か?」という質問に稲城イナバは答えた。V-22オスプレイなら二体、UH-60JAロクマルなら一体を空輸できる。GAU-8アベンジャーのことは伏せておいた。人型決戦兵器が30mm機関砲を装備しているなどと真顔で言ったなら、笑われるかもしれない。
「こうまで順調だと何か起きそうだな」単座式に乗った焔城ユウは呟く。
「そうね。埼玉県が東京都の押さえ込みに動いているけど、この駐屯地は埼玉に近いから……」水城リナは壁によりかかりため息をつく。
「もし、セラフ級がさいたま市防衛網を突破してきたらどうする?」黒城シュンは問う。
「そのときはGAU-8アベンジャーを使うしかないだろう。セラフ級は小型でもケルビム級十体は余裕で収納できる。展開されたら無傷ではすまない」
そんな話をしていると。
「大宮駐屯地(さいたま市北区)より入電!! 小型のセラフ級が北上!! 総員戦闘配置につけ!!」自衛官がマイクに向かって叫ぶ。
「噂をすればなんとやら、か。セラフ級がレーダーに映らない以上、目視で確認するしかあるまい」稲城イナバは冷静に言った。レーダーに映った瞬間にはもう手遅れである。ケルビム級十数体を放出したセラフ級は、レーダーに映らない特性を利用して帰還を果たしてしまう。
「さっきの話の続きだが……ヘリから吊るしてもらうわけにはいかぬか? 視界が広くなれば天使の目視と撃墜は容易になる」
稲城イナバの提案は、確かに第12旅団旅団長に伝わった。UH-60JAロクマルがすぐにクールからホットへ移行。スクランブル発進の準備を整える。バタバタバタバタバタバタ……ワイヤーで固定された武尊複座式は、まるで翼を持つ悪魔のように、空中に浮遊する。
上空から見る群馬の青空と大地は、綺麗だった。セラフ級が接近中でなければ、遊覧飛行と洒落込めるところである。武尊複座式の対天使レーダーには、武尊単座式が駐屯地で集めた情報が逐次アップロードされていく。
「見つけたわ!」小型のセラフ級がケルビム級をまだ放出していなかったのは僥倖といえた。姿勢制御をオートに、火器管制システムをマニュアルにする。30mm純銀爆裂弾を込めたGAU-8アベンジャーは、セラフ級の上空から火を噴いた。
ドガガガガッ!! 約二秒の連続射撃で、ヘリは衝撃で後ろに後退し姿勢を崩しかけ、セラフ級の背中には無数の爆破痕がつく。だが、セラフ級はタフであった。撃たれてなお、ケルビム級約十体を放出しようとする。それでも稲城イナバは、30mm純銀爆裂弾を信じてセラフ級の背の一点を撃ち続けた。すると唐突に火柱が上がり、セラフ級は墜落してゆく。
そしてケルビム級十体は、武尊単座式の餌になる定めだった。武尊迎撃モード。GAU-8アベンジャーの射撃による衝撃は、背中を預けた自営隊の車両に吸収させる。黒城シュンが手直しした姿勢制御と火器管制システムは完璧だった。上空から迫る十体のケルビム級を、武尊単座式は三点バースト射撃で次々と屠ったのである。
武尊から降りた稲城イナバと水城リナ、焔城ユウを待っていたのは、ひどく手厚い歓迎会であった。
武尊複座式、小型セラフ級、一体撃墜。武尊単座式、ケルビム級、十体撃墜。いうまでもなく、彼らは文句なしのエースだったからである。




