1話
───いつからだろうか。ピアノをまったく弾かなくなっていた。
小5の3月、私は舞台に立っていた。
そう、とても有名な発表会。
いつも緊張しているが、今回は特別緊張していた。
ピアノの前に立ち、礼をした。
そして順調に弾く・・・はずだった。
とちゅうで緊張のあまり楽譜を見ていても指が動かず
頭が真っ白になり気がついたら保健室にいた。
それ以来ピアノを弾かなくなった。
・・・・弾けなくなった。
───時は流れた
私は受験生、中学3年生の7月。
今年も合唱祭の時期が近づいてきた。
中学の合唱祭で伴奏はまだやっていない。
もちろん今回だって・・・。
のはずだった。
しかし、このクラスは幸いにもやる気はあるがピアノを弾ける人は
私のみだった。
学級委員の沼野さんが
「伴奏、誰かお願いします。」
と言った。
すると小学校が同じだった和田君に
「沼野~確か水田(私の名前)ってピアノ小学校の頃習っていたよ」
えっ・・・・。
「そうなの?水田さん。」
「えっ・・・あ・・・あの」
「そうだよ。な、水田!」
私はうつむいた。
「水田さんピアノお願いしても良いかな?」
教室がざわめく
──嫌だ。そう心が叫んでいた。