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三月と私。  作者: 空月


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3/3

三月とハロウィンと私。



 我が家のお隣さんは、ごくごく一般的な我が家と比べると、ちょっぴり異文化だ。

 それは、長期休暇には必ず海外旅行に行くところとか、家族間の親愛表現にキスがあるとところとか、日常会話がたまに英語なところとか――まあ要するに、ちょっとハイソサエティ且つ国際的な感じなのである。


 おじさんもおばさんも、とってもいい人たちだし(そしてびっくりするくらい美形だ)、一人息子で私の幼馴染みでもある三月も、ちょっとひねくれてるけどなんだかんだで優しいし(そしてやっぱり美形だ)、良好な家族ぐるみのお付き合いをしているのだけど、たまに、ちょっと異文化に戸惑うことがあったりする。


 たとえば、――三月が我が家を訪ねてきたと思ったら、開口一番「Trick or Treat?」と口にしたときとか。


 トリック・オア・トリート。聞いたことはある。ハロウィンの定番文句だ。

 仮装した子どもたちがいたずらかお菓子(おもてなし)かを迫るときに使う語句だったと記憶している。


 ……そういえば今日はハロウィンだったっけ。

 そう思って改めて見ると、三月はちょっと吸血鬼を思わせる感じの、仕立てのいい服を着ている。なるほど、仮装。

 たぶん、コスプレっぽいのはイヤな三月と、こういうことに妥協しないおばさんの間で一悶着あったに違いない、というのがわかる程度には、長い付き合いである。


 でも今まで一度もハロウィン的行事をこちらに持ち込まなかった(家族でいろいろやってるのは知ってた。パンプキン的お食事のお裾分けがあるので)お隣さんなのに、どうしたんだろう。

 思考に沈んでぼけっと突っ立っていた私を、三月が「目、開けたまま寝てるの?」と小突いた。その、頭の中身が入ってるか確認するみたいなノック方式はどうかと思う。


 しかし今回は意図せず三月を放置してしまった私が悪いので、とりあえず「寝てないよ。ごめん放置して。とりあえず上がって」と入室を促した――ら。


「トリック・オア・トリート。意味はわかるでしょ。どっち?」


 と、わざわざ発音のランクを下げてまでハロウィン的行動を続けられてしまった。

 

 ……さて、困った。これが学校だったらどこかのポケットに何かしらのお菓子を入れているけど、今は自宅。もちろんポケットにお菓子なんて入っていない。 かと言って、三月の考えるいたずらというのが想像つかないので、トリックはご遠慮したい。しかし部屋からお菓子を持ってくるのを三月は待ってくれなさそうだ。どうしよう。


 にっちもさっちもいかなくなった私を、三月は幼馴染みだからわかる、愉しげな瞳で見つめている。性格が悪い。

 たぶんこれはおばさんの思いつきとかだろうから、最初は絶対気乗りしなかったはずなのに、やるとなったら切り替えるのが早いというか何というか。


 とか考えてたら、ふいに三月の顔が近づいて。


「時間切れ。……今日はこれでゆるしてあげるよ」


 ――私の頬に、三月の頬が触れて。耳元でチュッとリップ音がした。


 お隣さん一家がやっているのを見たことがある、頬と頬をくっつける、あいさつ。

 それをなんで今やったかって、……間違いなく、Trick(いたずら)だ、これ……!


 真っ赤になった私を見て満足げに笑う三月に、してやられたとは思うものの、嫌悪感はない。

 それは、お隣さん一家の挨拶として見続けていたからか、それとも。


 しばらく私の頭を悩ませたそれが、三月による私の恋愛的追い込みの一環だったなんて――そのときの私には知るよしもなかったのだった。





『三月と私。』の二人の続きを、とリクエストをいただいて書いたもの。

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