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不思議なカフェ  作者: 紙絵
第一章

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8/22

番外編 桜の木

不思議なお店の裏には、樹齢100年以上の大きな桜の木がある。

10人が手を繋いでちょうど位の幹。

この木を植えた人は、何を願ったのか。


ソラがバイトを始める少し前、今年の春も、桜を咲かせた。

今は葉桜になっているが、甲斐は毎年この桜と共に春を迎えている。


今日のバイトはお店の外で作業。散った桜を掃除するのだ。

「この桜の木には云くがあるんだ。」

甲斐さんが桜の木を見上げて言った。

「いわく?確かに古い木ですもんね」

ソラは、散った桜を箒で集めながら桜の木を見上げる。

「悲恋の昔話」



スエは感受性が強い女の子だった。

神社の娘だった末には、許嫁がいた。彼の名前は、橘渚タチバナ ナギサ。村の長の息子。

末は14歳、渚は17歳。もうすぐ婚礼だ。


「末!」

「渚さん」

2人はいつもここで待ち合わせする。

村の少し外れ、分かれ道になる手前。

普通、許嫁は親が決めるし、婚礼当日初めて顔合わせするのも珍しくない。しかし2人はもともと知り合いだった。好き同士になるのに時間はかからなかった。


手を繋いで道を歩く。

昨日の雨で水たまりが至る所にできている。2人は仲良く避けながら進む。

「もうすぐ婚礼だね。緊張してる?」

渚が口を開く。

「うん、少し。でも、楽しみの方が強い」

末は微笑む。

「花嫁衣装、着れるの楽しみ」

「そっち!?」

渚は肩透かしをくらう。俺は末と夫婦になるって嬉しいし、緊張してるのに。

ちょっとムスッとして言う、

「俺達夫婦になるんだぞ?意味分かってるか?」

「…分かってるよ?」

上目遣いで顔が赤くなりながら末が答える。その顔を見て、自分が恥ずかしくなった。

「すまん。意地悪言って…」

「ううん」

お互い恥ずかしくて俯く。手は繋いだまま。


大きな音が響いた。

「なんだ?」

2人は足を止める。村の方から聞こえた。

「行ってみよう」


村の近くの山が土砂崩れをおこしている。末の神社の近くである。

「巻き込まれた人はいないかー!」

大人達が集まっている。

「お父様、お母様…」

末の顔から血の気が引く。

境内の半分が土砂に埋まっている。

「末はここにいて!」

渚が現場に走る。

「近くの家の者は橘家に避難してくれ、渚お前も避難手伝え!」

渚の父親であるこの村の長が指揮を取っている。

「父上!末のご両親は?」

声が震える。緊張して手が冷たい。

「まだ見つかってない、末さんは一緒か?」

「…はい。」

「そうか、またいつ土砂崩れが起きるか分からない。ここは危険だから、末さんと一緒に避難していなさい。」

「わかりました。父上もお気をつけて。」


土砂崩れはこの一度だけで終わった。この災害で助からなかったのは、末の両親だけだった。

渚と末の婚礼は延期になった。事実上、婚約解消である。

「父上、どうにかなりませんか?」

渚は再三お願いをしているが、こればかりは難しい。この時代、結婚は家同士の繋がりが強い。末の神社も土砂崩れでなくなってしまった為、末は何もかも失ってしまった。

父親も母親も悲しそうな顔をしている。

「私達は橘家だ。すまない、渚。」


末は、隣町の神社の息子に嫁ぐことになった。橘家が口利きをした。

良い縁だが、本人達は離れ離れになるのだ。口には出せないが、本当は望んでいない。


「末…元気で」

「渚さんも…」

渚は末の両手を掴む。

「なあ、2人で逃げてしまおうか?」

末は悲しそうに微笑むと首を横に振った。

「それは出来ません。皆様に迷惑がかかります。私達は恵まれています。」

「そうか…そうだな。何か問題が起きたらすぐに橘家を頼ってくれ。それと、村の神社は俺が守ろう。」

渚は末を抱き寄せた。

「渚さん!誰かに見られたら…」

「少しだけだ…」

体を離す2人。

「来世に夫婦になれたらいいな。」

渚は泣きそうな顔で笑う。

「はい。私も願っています。」

末も泣きそうな顔で笑った。


またこの場所で会えますように。


2人はいつも待ち合わせしていた場所に、桜の苗木を植えた。何年経っても、それがたとえ来世でも、桜の木が目印になるように。



現代の不思議なお店。

ソラと甲斐は桜の木を見て話している。

「結ばれなかった恋人が、この桜を植えたんだって。」

甲斐さんがざっくり説明してくれた。

「男の方は俺の先祖で、女の人は神社の人で感受性が強かったらしい。」

「へえ〜」

感受性が強いのは私と同じだな、

「神社って、あの事件があったあそこですか?」

ソラはミーちゃんを守って、危ない目にあった神社を思い出す。

「そういえばあの神社、家が管理してた事あるかも…」

現代に繋がっているんだな。

ソラは木に触れてみる。

古いものは思いや願いが強すぎて、近づきたくない事が多いが、この木は清々しい。


なんだか懐かしい感覚を覚えるのは気のせいだろうか。


その桜の木は、お店の裏に今も堂々と立っている。そしてこれから先も、きっとここにあるのだろう。

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