事件
ソラはバイトの帰り道、前を歩くミーちゃんを見つけた。こっちの方向なんだ。
作業着の男が網を持って歩いてくる。ミーちゃんを見ている。
あ!
男は網でミーちゃんを狙って振り回す。ミーちゃんはギリギリ避けた。逃げるミーちゃんを追いかけていく男。
ソラも慌てて追いかける。走りながらスマホを取り出して、甲斐さんに電話する。
繋がらない。
神社に入っていく。
ミーちゃん首輪付けてるから飼い猫って分かるのに、なんで?
保護目的ならおかしい。
「ミーちゃん!」
ソラが叫ぶとミーちゃんと男が気づいた。
「すみません、その猫うちの子です」
ソラがはっきり口にすると、作業着の男は一瞬怯んだ。
「そ、それは気づかなくて…でも、どうでもいいかなあって」
寒気がした。
あ、この人危ない。
感受性の高いソラは危険を察知して、いつもなら避けることができる。が、今回は追いかけるのに夢中で気づかなかった。
「どうでもいいって…?」
ミーちゃんが威嚇している。
「うざい猫だな」
男は網を振り回す。ミーちゃんが避ける。
「じゃあお前でいいか」
男がこちらを振り向いた。標的がソラに変わる。ミーちゃんが男に飛びかかるが、避けられてしまう。
網を放り投げる。
逃げなきゃ、足がもつれながらも神社の境内に走る。
誰かいて!
夕方の神社、人気はない。
「おいっ!逃げるな!」
大きな声に耳を塞いでしまう。
怖いっ
体が緊張して固くなる。転んでしまった。
追いつかれる
ミーちゃんが威嚇しているが、男はもう猫に興味はないらしい。
左手首を掴まれた。
「!」
振り解けない。すごい力。
「かわいいねぇ」
男がニヤニヤ笑っている。
こっこれはまずい!
「犬飼さん!」
男が後ろを振り向くと同時に、吹っ飛んだ。
手が離れる。
「大丈夫?何もされてない?」
甲斐さん来てくれたんだ。
「はい!」
「よかった…」
甲斐がソラをギュッと抱きしめる。
「!」
「は!ごっごめん!安心したらつい」
体を離す甲斐。
殴られた男は奥で倒れているが、意識はあるようだ。
「くそっ」
よろよろ逃げていく。
「逃げちゃいます!」
立ちあがろうとするソラ
「大丈夫だから!」
ソラを支えながら甲斐さんはスマホを取り出すと電話をかける。その間に男は見えなくなってしまった。ミーちゃんがソラの手を舐めた。
「ミーちゃん…無事でよかった。」
ミャアと鳴くミーちゃん。お店じゃないから話さない。
「…うん。あと宜しく」
誰かに連絡したらしい。
「電話すぐ出られなくてごめんね」
「いえ、でも来てくれてありがとうございます。どうしてここが分かったんですか?」
「勘だよ。犬飼さんの電話で緊急性を感じて…一旦お店に戻ろうか、歩ける?」
ミーちゃんはさっと走っていく。
「遅くなっちゃって、おじいさんが心配するから今日は帰るって。」
甲斐さんはお店じゃないのに猫の気持ちが分かるらしい。
お店に着くとルイボスティーを淹れてくれた。
「帰りは送ってくからね!」
「そんな、悪いです…」
「だめだよ、雇用主として心配だからね。」
そこまで言われてはお願いするしかない。
「ありがとうございます」
ルイボスティーを飲むと落ち着いた。それにこの場所もやはり安心する。
「犬飼さん!どっどうした?」
「え?」
涙が流れていた。
「あれ?」
自分でも気づかないまま流れてくる。
「どこか痛い?」
甲斐さんがあせっている。
カウンターから出てきてソラの顔を覗き込む。
「いや、安心したら勝手に…」
なかなか止まらない。
「…自分が思ってる以上に怖かったみたいです。」
さっき掴まれた手首をさする。うっすら赤い手の跡がまだ付いている。震えが止まらない。
頭に手が触れる。
「怖かったよね。もう大丈夫だから。」
甲斐はソラの頭をポンポンする。
「ハンカチなくて、服で拭いていいよ」
ソラは甲斐によりかかる。服が涙で濡れた。
「…すみません。もう少しこうしててもいいですか?」
「…うん。」
甲斐さんの匂い、落ち着く。震えが止まった。
泣き止んだソラが見た甲斐さんは、耳が赤かった。




