猫被り
昨日はやりこんでしまった…
ゲームを夜中までやっていたので、眠くて仕方ない。
ソラはふらふらしながらバイト先へ向かう。
今日は土曜日。いつもより人通りも多い。
「おはようございます」
お店に入る。静かだ。
あれ?鍵開いてたけど、甲斐さんいない?
不用心である。
ロッカーにカバンを入れて、椅子に座る。
ちょっとだけ…腕に頭を預ける。
気が良い場所というのは本当で、このお店に来ると何だか元気になる。何となく思っていた事だが、寝不足の状態だとよく分かる。
それに、ポカポカしてて気持ちいい。
「犬飼さん、犬飼ソラさーん」
うるさいな、人が気持ち良く寝てるのに。
「お仕事だよー」
肩をトントンされて、はっとなる。
私寝てた!
ガタン!勢いよく立ち上がりすぎて椅子が倒れる。
甲斐さんの肩にぶつかる。
「ひゃっ」
よろけるソラを甲斐さんが受け止める。
「おおっと、落ち着いて」
「すみません、寝てしまい!あと、ぶつかってしまって!」
上を見ると甲斐さんの顔が近くにあった。抱き抱えられている。
「いいよ、いいよ。俺こそ来るの遅れてごめんね?」
甲斐さんが楽しそうに笑う。
心臓が激しく打つ。
なっ…何だ⁉︎
戸惑っている間に、甲斐さんはカウンターの段ボールに向かう。
「昨日兄貴が色々持ってきたから、それの整理してもらおうかな」
「はい、やります!」
少し寝たら元気になった。
「針、気をつけてね」
甲斐はニコニコしながら、ソラにミニサボテンを手渡す。
「カバン置いてくる。中に入ってるもの出しといてくれる?」
甲斐はロッカーへ向かう。
あせった…思わず抱き抱えてしまった。
顔に寝ていた腕の跡が付いていた。真面目な子だと思っていたけど、何だか可愛く見えた。
作業をしていると、猫が入ってきた。
小柄な白い猫だ。
「ふぁあ、ミルクから聞いて来たの。」
「あ、はい!」
ソラは何と言ったらいいか分からない。いらっしゃませは違うし、ようこそ〜はメイド喫茶?
「どうぞ、くつろいで下さい」
甲斐さんが自然に声をかける。
なるほど、くつろぐね。
納得するソラ。
「本当だ、ポカポカして気持ち良い」
白猫は丸くなった。
「ですよね!」
ソラは激しく同意する。
「ぷっ!」
甲斐さんが吹き出している。
白猫はスヤスヤ寝始めた。疲れているのか、野良猫だろうか?
甲斐さんはソラに手招きする。
「僕達も休憩しようか」
「はい」
甲斐さんはお茶の用意を始める。
「今日はミルクティーにしよう。お茶はアールグレイで癖がなくて飲みやすいよ」
ソラは砂糖を入れてかき混ぜる。
コンビニで買うミルクティーとは違う。香りが良くて甘さもくどくなくて、
「おいしい」
「よかった」
甲斐さんはニコッと笑う。
きれいな顔だけど、さっきの笑顔とは違う。
「どうかした?」
じっと見つめてしまった。
「いえ、甲斐さん何か疲れてます?」
「え?そう見える?」
「いや、ただ、さっきの笑顔と違うなと思ったので。」
甲斐は悪い事を見つかった時みたいに、どきっとする。
「そうか…お店用というか、外面用に猫被ってる所があるから。犬飼さんは鋭いね。」
観念したように甲斐が目をつむる。
この店に選ばれたソラは邪念が少ない。加えて感性も動物と似て鋭いらしい。
「嫌な気分にさせてたら、すみません。」
下を向くソラ。
「私昔から余計な事言っちゃって、怒らせちゃう事あるんです。」
またやってしまった、変に思われてクビになったらどうしよう。
「大丈夫、怒ってないよ。猫被りしてるのバレて恥ずかしいだけだから。」
甲斐さんを見ると、手で顔を隠しているが、耳が赤い。
「ホント、犬飼さんが謝る事ない」
年下の女の子にいい所見せたくて紳士ぶってたとか、それを本人に指摘されるとか、恥ずかしすぎる。
「怒ってないなら良かったです。」
甲斐の心境は分からないソラは、安心した。
「ミルクティーおかわり飲みたいです。」
「いいよ。おかわりあげる。」
ちょっと投げやりになった甲斐だった。




