狸と狐
後日、狸の女性と甲斐の知り合いという男性がお店に来た。
「こんにちは!君がバイトの子かぁ」
「はい?」
「武尊、距離感」
甲斐が武尊の襟を掴んでいる。
「はじめまして、武尊です。甲斐とは幼なじみで。」
「はじめまして、犬飼ソラです。」
面白い人だな…
「もうすぐ狸の女性来ると思う。」
甲斐が武尊に話す。
「うん、葛の葉用意してきた」
武尊は、葛の葉を沢山机に並べる。
「お願いしてきた狸は1匹だったけど?」
甲斐は不思議そうに葉っぱを見ている。
「いいんだよ。きっとそうじゃなくなる。」
ドアが開く。
「あ、来た…」
この前の女性と、後ろから年配の男女…その後ろに男の子が。
「皆さんお揃いで、こちらにどうぞぉ」
武尊が慣れた様子で仕切る。
甲斐とソラは邪魔にならないよう、カウンター裏から様子を伺う。
「甲斐さん、あの、武尊さんて人間ですか?」
ソラはコソッと訊ねる。
「鋭いね、半分人間だよ」
甲斐の答えは余計ソラを混乱させた。
「宜しくお願いします」
この前の女性が武尊に頭を下げる。
「家族も連れて来ちゃいました。お守りを作り直してくれるって言ったら、自分達のもって。」
「全然いいですよ。それじゃあ始めます。」
武尊は葛の葉を持って、何か呟く。ふわっと白い煙が葉っぱから上がる。
「おぉ〜葉っぱがお守りになった!」
ソラが小声で感動する。
「ありがとうございます!」
狸の女性も、女性のお連れの方々も感動している。
ん?
男の子から尻尾が見えている。感動しすぎて正体が現れている。
武尊が全員分のお守りを作ると、狸の皆さんはお礼を支払って帰って行った。
「お疲れ、1人だと思ったのに悪かったな。」
甲斐は武尊に謝る。
「いや、狸達って群れる事が多くてさ、大体一族で来るんだよ。」
甲斐が煎れてくれた緑茶を飲みながら、武尊が話し出す。
「あの、武尊さんはなんであんな術が使えるんですか?」
ソラが疑問を口にする。
「オレ、先祖に狐がいるんだ。」
狸の次は狐?
「昔から、狸も狐も人間に化けて暮らしてたりしてさ。俺の先祖もその1人で。
似たような仲間ってことで、狸が困ってたら助けてあげてるんだよ。
ちゃんとお金は取ってるけどね」
しっかりしている。
「武尊は代々、橘家を守っている狐の一族なんだ。まぁ、人間なのに狐の術が使える一族って事だけど。」
甲斐がソラに説明する。
「そこまで言っちゃっていいの?」
武尊が甲斐をつつく。
「大丈夫。ね、ソラちゃん」
甲斐があの笑顔で笑いかける。
「ふぅん。なるほどね〜」
武尊はソラを見てニヤニヤしている。
ソラは2人に注目されて、ちょっと居心地が悪かった。
甲斐はソラと初めて会った時に懐かしい感じがした。
一緒に過ごすうちに分かった。
ソラとは昔からの縁が繋がっている。きっと俺はこの子と一緒になるんだろうと。
そして、勘で分かるのと同じくらいのスピードで、気に入っていった。
ソラの前では、名家に相応しい自分から年相応の自分になってしまう。
想定外で、ほっとけない。ふとした時に思い出す。
「はぁ。」
甲斐はため息をつく。
伝えたいが、ソラの方はまだ時期じゃない。
力のせいで、色々分かってしまうのも困りものだ。
「つらい」
甲斐は冷めた緑茶を飲んだ。
ソラは甲斐の事を考えて…いなかった。
狸と狐の事も、そういうこともあるんだなぁ、と早々に受け入れていた。
動物が話した時から、ソラはあまり驚かなくなっていた。
自分なんてまだ、10年と少し生きているだけの小娘だ。知らない事があるのは当たり前である。
よって、そんな事は考えず、目の前のゲームに没頭するのである。
バイトを頑張ったおかげで、新作ゲームを2つも買えた。
甲斐の気持などつゆ知らず、毎夜毎夜ルンルンのソラであった。




