デート?
時は少し遡る。
バイト中、
「例の猫カフェ、明日オープンらしいけど、行く?」
甲斐さんがソラに伝える。
明日は土曜日だ。バイトもない。
「行きます!どこですか?」
即答である。
「犬飼さん家からだと、ここと逆側かな?」
甲斐は事件の時、ソラの家に来ている。
「いいよ、俺迎え行くよ。通り道だし。」
「ありがとうございます。」
ソラは道を覚えるのが苦手である。迎えに来てもらうのはありがたい。
土曜日当日、甲斐はソラの家のピンポンを押す。
「行ってきます」
ソラが出てきた。いつもの制服姿ではなく、私服である。キャップにロンTにワイドパンツ姿だ。
「じゃあ行こうか」
甲斐はいつも私服なので、特に真新しさはない。
「制服じゃない犬飼さん初めて見た。帽子似合うね。」
「日差し強くなってきたので…ありがとうございます。」
スラっと褒める事ができる甲斐、さすがだなあ。感心していると視線を感じた。
「あのさ…ソラちゃんって呼んでもいい?」
甲斐さんがちょっと照れながら聞いてきた。
「犬飼さんって硬いなって…」
「全然いいですよ、好きに呼んで下さい。」
呼び方なんて特に気にしない。
「よかった」
甲斐さんが楽しそうに笑った。
ソラの心臓が跳ねる。
「…甲斐さんがその笑顔すると、心臓に悪いです。」
「え?心臓?」
甲斐はキョトンである。
「何でもないです。」
ソラは静かに深呼吸した。
猫カフェを出たあと、
「猫まみれでカフェどころじゃなかったから、ちょっと休憩したいんだけど、ソラちゃん時間ある?」
甲斐は腰に手を当てて息を吐いた。
「はい、特に予定もないです。」
2人は自販機で買ったジュースと共に、近くの公園のベンチに座った。
「甲斐さん凄かったですね!あんなの初めて見ました!」
甲斐の猫まみれ状態に大興奮のソラ。
「あはは、ソラちゃんが嬉しそうで良かったよ」
甲斐も楽しそうである。
またその笑顔でどきっとする心臓を抑える。
「どうかした?」
甲斐がソラの顔を覗き込む。
「大丈夫です。多分…」
不正脈か?だったら大丈夫じゃない。
「ほんとう?」
更に顔を覗き込む甲斐。
「し、心臓がどきってするんです。甲斐さんの笑顔見ると…これ何なんでしょう?」
「え?」
甲斐が固まった。
「それって…いや違う、でも…」
モゴモゴしている。
「…ソラちゃんて彼氏いる?」
「彼氏ですか?いた事ないですけど」
「じゃあ、誰か好きになった事は?」
心臓と何の関係が?
「ないです。」
「俺の事好き?」
「え?」
ソラは思わぬ質問に思考停止した。
「甲斐さんが好き?」
口に出していた。
「あはは、ソラちゃんて面白いね!冗談だよ」
甲斐さんが吹き出す。またあの笑顔で笑う。
あれ?
ソラはドキドキしている自分の鼓動を感じる。これってそういう?
いままでゲームの事しか考えてこなかったソラ、自分がまさかそんな状態に陥るとは…
「まぁ、そうだったら嬉しいけど。また何かあったら教えて?」
「あの、甲斐さんも心臓がおかしくなる事ありますか?」
「お、俺?…あるよ」
甲斐さんが優しく言った。
なんだ?今度は胸が締め付けられるような…何だか苦しい。
「甲斐さん、今度は苦しいです」
さっきまで猫カフェで楽しかったのに、急に何だか気分が落ち込んでいる。甲斐さんがあるって言ったから?
「ソラちゃん大丈夫?気分悪い?帰ろうか」
甲斐が腰を浮かす。
ソラは甲斐の服を咄嗟に掴んだ。
「まだ一緒にいたいです。」
甲斐もソラも驚いた顔をしている。
「ソラちゃん、やば、俺も今心臓飛び出るかと思った…」
「ええ?どうしてですか?」
ソラが追求する。
甲斐は座り直して手で顔を塞ぐ。
「もう、ソラちゃん勘弁して…」
耳が赤くなっている。
「甲斐さん、前もそれやってましたよね?」
ソラは遠慮なく追求している。本人に甲斐を追求している自覚はない。
「ソラちゃん?」
「はい?」
甲斐がソラの口を人差し指で抑える。
「恥ずかしいから、ちょっとストップ。」
ソラの心臓がまた跳ねる。
少しの間、2人とも動かなかった。




