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赤い傘

作者: まつか

霊が視える男の話

雨は嫌いだ、晴れの日よりも色々なモノが視えるから。




シトシトと振り続ける雨をうっとおしく思いながら、傘を片手に家路を急ぐ。

今日の夕飯は何だろうか、と家で待っている恋人の事を考えて口元が緩んだ。


人気の無い路地を歩いていると、後ろからパシャパシャと水を弾く小さな足音がした。

俺はそれを無視しながら、前だけを向いて歩く。

音はドンドンと近づくと、とうとう俺の隣まで来て並んで小さな水飛沫をあげた。


横目でチラリと見れば、やはり誰もいない。

しかしよくよく水溜りの方を見ると、手に可愛らしい苺柄の赤い傘を持った小さな女の子の姿が映っている。

あぁ、そういえば少し前にこんな雨の日にこの近くで女の子が一人轢き逃げにあったばかりだったな、と一人納得していると傘を持たない方の手をギュッと握られ引っ張られる感触がした。

困ったな、帰るのが遅くなるじゃないか。と思いながらも、俺は次の曲がり角で家とは反対側の方へと曲がった。


『あめあめふれふれかあさんが……』


何処からか、女の子の歌声が聞こえる。

遠いような近いような、嬉しそうで楽しそうなその歌声と、雨音と、水溜りの水を弾く俺達の足音。

それ等をBGMに、人気の無い道を引っ張られるままに歩いた。


そのまま暫く歩くと、一軒の家の門に辿り着く。

「着いたぞ。」

そう小声で言うと、手にあった感触は無くなり水溜りに映った赤い色が離れていくのが視えた。

少し離れると、その赤は一度止まり


『お兄ちゃん、ありがとう。』


そう聞こえたかと思うと、その影は家の中へとスッと消えていった。


今日はガラにもなく良い事をしたな。

少し良い気分になり、俺は下手くそな鼻歌を歌いながら恋人の待つ我が家へと急いだ。




数週間後、自分の家族を殺して捕まった男の供述から、犯人は件の少女轢き逃げ犯でもある事が分かったとニュースや新聞で話題になっていた。


家族を殺した件に関しては、

「轢き殺した女の子の幽霊が出た。その子と間違えた。」

と供述しているらしい。


恋人は「轢き逃げしたうえに、化けて出た女の子をまた殺そうとするなんて酷い人もいるんですね。」と涙汲んでいた。

俺はそれよりも、地縛霊というやつはそこに留まっていても犯人の家が分かるのだな。と妙な関心をしていた。


テレビに映る犯人の家。

その窓の隙間から、あの苺柄の赤色が見えた気がした。

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