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『栄光なき天才たち』文庫版
「ありがとうございました」
背後に店員の声を聞きながら、紗英は店を出た。
バイクにまたがり、風に乗るように加速する。次の店までは15分ほど。気づけば思考は、先ほどの仕入れに戻っていた。
『栄光なき天才たち』文庫版の2巻と3巻。どちらも棚に並んでいた。
2巻は、今揃えている予備セットの中でまだ欠けていた巻。軽く状態を確認し、迷いなくカゴに入れた。
3巻はすでに持っている。背表紙を見て、手に取ることもなくスルーした。
紗英には自分なりのルールがある。
セット本は、1セットずつ。必要以上に抱えすぎない。
例外は、よほどおいしいと思った場合だけ。それ以外は集めすぎない。
今回の3巻はどうか。
回転はいい。ただ、出品者が多く、価格が崩れやすいセットでもある。
それでも安定感はあり、例外として拾ってもいいかもしれない──そう思わせるだけの理由はある。
信号が青に変わり、アクセルを軽くひねる。
紗英は風を切りながら、次の仕入に意識を戻していった。