NANA
紗英は仕事部屋に入り、オーディオからお気に入りのセットリストを流し、作業机の椅子に腰を下ろした。
部屋の三方には天井近くまでスチール棚が立ち、本が隙間なく並んでいる。8割方がコミックだ。
出品前の商品は雑然としているが、出品中の商品はカゴやボックスに分けて棚に収め、見た目にも整理されている。
作業机の脇にある小さな棚には、目いっぱい本の詰まったビニール袋が八つ。中身は三日分の戦果だ。
紗英はそのうちの一袋を手に取り、中身を机の上に出してひと山にした。
本を一冊ずつ拭いていく。拭き終えたものは、値札シールの面を上にして、机の手前に縦二列で並べる。
一度に並べるのは八冊から十冊。拭きだけで落ちない汚れは、ジッポオイルを染み込ませたティッシュでこすり取った。
剥がしにくそうなシールには、あらかじめジッポオイルを垂らしておく。染み込むのを待つあいだ、別の本を拭く。
オイルが効いてきたら、専用のヘラで剥がす。シールを剥がした跡をそのシールで二度ほど叩いて粘着を取る。
粘着が残る場合は、オイルをつけたティッシュで軽く拭う。
仕上げた本は、作業机の反対側に積んでいく。
それら一連の作業を、紗英は手際よく、黙々と続けた。
五つ分の袋がカラになり、六つ目に取りかかったところで、「NANA」21巻が出てきた。
(そういえば、昨日買っていたな)
紗英は表紙を見ながら、利益をざっと計算した。最近の最低価格、在庫の変動、販売タイミング。
少し前より動きは鈍っていたが、売れない本ではない。単品でもそこそこの価格になる。
ふと、作業の手が止まった。
ついさっきまで、目の前のこの本を、ただの商材としてしか見ていなかった。
(これ、昔――夢中で読んでたんだっけ)
自分でも気づかないうちに、“商品”の目で見ていたことに、苦笑する。
あの頃、何度も何度も読み返したはずなのに。
紗英はクリーニングした「NANA」21巻を、出品待ちのとは別のところに置いた。
久しぶりに読もうと思った。