グルマンくん
埼玉県内の郊外型ブックオフ。
15時頃その店に到着したときには、不穏な雲が空を覆っていた。
2店舗ほど前から気になっていたけど、いよいよ雨が降ってくるかもしれない。
降ったらやだな、と思いながら、紗英はバイクを降りて入店した。
他の棚には目もくれず、まっすぐコミックコーナーへ。
空模様も気になるし、この店では20分程度でチェック、と方針を決定。
そしてすみやかにコミック棚のチェックを開始した。
チェック開始から10分程度が経過。
ここまでの仕入れは、セットコミックの抜け巻が数冊ほど。まだ「当たり」はない。
正直、この店での感触はあまりよくない。
もともと「当たり」を引ける印象のある店でもないし、まあこんなものか――と、やや諦め気分で棚を流していた。
そんなとき、角川書店コーナーで気になる背表紙が目に入った。
タイトルは『グルマンくん』。3巻が1冊、ぽつんとある。
手に取って、スマホのアプリでチェック。
――おっ。
思わず、小さく声が漏れそうになる。
状態はまずまず。価格もしっかり跳ねていて、見込み利益は十分、いや十二分にある。
なぜ高騰してるんだろう。
そう思いながら、紗英はページをパラパラと流し読みする。
料理マンガ……のはずなのに、登場人物がみんなプロレスラー体型で、調理の記述がどう見ても闘い。
寿司が爆発しそうな勢いで語られ、料理人が「握り勝負」などと言って様子を構えている。
「……こういうのが好きな人も、いるんだろうな」
紗英的にはナシな内容だが、人の趣味はさまざまだし、色々と振り切った作品のように見える。
人を選ぶ作風、そしてかつての大ヒット作の作者が手がけていること。
高騰の理由は、そのあたりだろうか。
とはいえ、完全に納得できたわけではない。
帰ったらもう少し調べてみようと思う。
こうして仮説を立てていくこと――「なぜこの本が高騰しているのか」を考えることは、仕入れの精度を上げる武器になる。
その勘を磨くこと、それが大切なのではないか。紗英はそんなふうに考えている。
会計を済ませて時計をみると、入店時から20分と少しの時間が経っていた。
買った本の冊数は8冊。
それを両手で抱え、出入口すぐそばに停めたMyバイク、愛車PCXの元へ。
座席に本をそっと置き、後部のキャリーケースの鍵をひねって開ける。
キャリーケースの中には本日の戦果、4店舗のブックオフで仕入れた本が、サイズごとに袋詰めされた状態で収まっていた。
紗英は今回の仕入れ分も同じように詰め分け、パチン、とケースを閉めた。
空を見上げる。
雨は降ってない。けれど空模様は不穏さを増したように思える。
「今日はここまでかな」
そう呟いて、紗英は帰路についた。