表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/8

グルマンくん

埼玉県内の郊外型ブックオフ。

15時頃その店に到着したときには、不穏な雲が空を覆っていた。

2店舗ほど前から気になっていたけど、いよいよ雨が降ってくるかもしれない。

降ったらやだな、と思いながら、紗英はバイクを降りて入店した。


他の棚には目もくれず、まっすぐコミックコーナーへ。

空模様も気になるし、この店では20分程度でチェック、と方針を決定。

そしてすみやかにコミック棚のチェックを開始した。


チェック開始から10分程度が経過。

ここまでの仕入れは、セットコミックの抜け巻が数冊ほど。まだ「当たり」はない。

正直、この店での感触はあまりよくない。

もともと「当たり」を引ける印象のある店でもないし、まあこんなものか――と、やや諦め気分で棚を流していた。


そんなとき、角川書店コーナーで気になる背表紙が目に入った。

タイトルは『グルマンくん』。3巻が1冊、ぽつんとある。


手に取って、スマホのアプリでチェック。

――おっ。

思わず、小さく声が漏れそうになる。

状態はまずまず。価格もしっかり跳ねていて、見込み利益は十分、いや十二分にある。


なぜ高騰してるんだろう。

そう思いながら、紗英はページをパラパラと流し読みする。


料理マンガ……のはずなのに、登場人物がみんなプロレスラー体型で、調理の記述がどう見ても闘い。

寿司が爆発しそうな勢いで語られ、料理人が「握り勝負」などと言って様子を構えている。


「……こういうのが好きな人も、いるんだろうな」


紗英的にはナシな内容だが、人の趣味はさまざまだし、色々と振り切った作品のように見える。

人を選ぶ作風、そしてかつての大ヒット作の作者が手がけていること。

高騰の理由は、そのあたりだろうか。


とはいえ、完全に納得できたわけではない。

帰ったらもう少し調べてみようと思う。

こうして仮説を立てていくこと――「なぜこの本が高騰しているのか」を考えることは、仕入れの精度を上げる武器になる。

その勘を磨くこと、それが大切なのではないか。紗英はそんなふうに考えている。


会計を済ませて時計をみると、入店時から20分と少しの時間が経っていた。

買った本の冊数は8冊。

それを両手で抱え、出入口すぐそばに停めたMyバイク、愛車PCXの元へ。

座席に本をそっと置き、後部のキャリーケースの鍵をひねって開ける。

キャリーケースの中には本日の戦果、4店舗のブックオフで仕入れた本が、サイズごとに袋詰めされた状態で収まっていた。

紗英は今回の仕入れ分も同じように詰め分け、パチン、とケースを閉めた。


空を見上げる。

雨は降ってない。けれど空模様は不穏さを増したように思える。


「今日はここまでかな」


そう呟いて、紗英は帰路についた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ