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まんだらけ渋谷店

渋谷のまんだらけに来て、少しだけ昔のことを思い出した。


高校生のころ、初めてまんだらけという場所を知った。

通っていたのは池袋。中野に行ったのはもう少しあとだ。

まんだらけは、私にとって美術館のようなものだった。

マンガは好きだったけど、価格設定はお高め。

それでも、いつもとは違う本が見られる場所という意味で、特別だった。


そのため昔の私は、あまり立ち寄ろうとしなかった。

足を運ぶときは目的がはっきりしていたし、たまにしか訪れないぶん特別感もあったように思う。


池袋店は女性向けジャンルに特化していて、品ぞろえは豊富。

ただ、私にとっては少し「気力のいる店」でもあった。

中野店はとにかく広くて、有名になりすぎた。

観光地化してからは、どうにもやりにくい。


渋谷店は、紗英のお気に入りだ。


駅から少し歩いたところにある雑居ビル、地下への階段を下りた先にひっそりと入り口がある。

まるで秘密基地。そんな入り口のたたずまいが、なんともいい。


売り場を見渡す。客の数はまばら。

当たりの日だ、と内心ほくそ笑む。


客が多いのはお店にとっては歓迎すべきことだろうけど、こちらとしてはやりにくい。

眺めている人の横から棚をチェックするのは気を使うし、通路だって狭くなる。

私はせどりをやっているけれど、だからこそ迷惑をかけない立ち回りには気を配っている。

まっとうな客でいたい。


この日も、店内をいつものルートで巡っていく。

ある棚で1冊カゴに入れ、別の棚でもう1冊。

見覚えのないコミックをいくつか手に取り、スマホで価格をチェック。これはお勉強。

知らないままでは判断がつかないし、知っていれば仕入の幅が広がる。

作業は淡々と、しかし集中して進める。


コミックを「商品」とみなし、棚をチェックするこの行為は、正直疲れる。

目も足も使うし、頭も使う。

けれど、仕事にする前のほうが楽しかったかというと、必ずしもそうではない。


私は買う前に一度、中身に目を通したいタイプで、

すべての本にシュリンクがかかっているまんだらけには、探している本があるときしか来なかった。

学生時代は毎日のようにブックオフで立ち読みしていたのに。


最終的な戦果は、カゴの半分程度。

見込利益は1万円ほど。所要時間は約2時間。


今は違う。

同じ場所を、違う目で見ている。


ボディバッグから、仕入れ用の布製トートを取り出す。

買った本をサイズごとにそろえて詰め、地下の階段をのぼる。

夕方前の渋谷の街は、まだざわざわとにぎやかだ。


私はバイクのところまで歩いていき、キャリーケースを開ける。

本をひとまとめにして収め、ヘルメットをかぶる。


目も足も正直くたびれていたけど、

エンジンの振動が手に伝わると、不思議と気持ちが切り替わる。


そして次のお店へ。

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