表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/52

[キャンディ・キャンディ]

朝のブックオフは静かだ。

人も音も少なく、本の背表紙が棚の中で眠っているように見える。


紗英は棚の前に立ち、いつものように“目”を使う。

目で見て、ふるいにかける。

慣れれば「いける」「ダメ」の判断は九割が見た目でつく。

残り一割のためにスマホを出す。


損をしない。必要なら損を覚悟して買う。

それが紗英の仕入れルールだ。


今日の最初の店は、自宅から電車で三十分ほどの住宅街にあるブックオフ。

営業職時代、昼休みに何度か寄ったことがある。


(……あれ?)


視界の端に、ピンク色のロゴ。

『キャンディ・キャンディ』――全九巻。

110円コーナーに、ひっそりと並んでいる。


思わずしゃがみこみ、一冊ずつ手に取る。

カバーはくたびれているが版は揃っている。

小口にシミはあるが、本文はきれいで焼けも最小限。

読み込みではなく、ただ時間が経っただけの本だ。


この年代にしては上出来。

990円で、この状態。

悪くても一万円はかたい。


胸の奥に、せどらー特有のあの感覚が走る。

久々のお宝発見。買う、即決だ。


レジへ向かいながら、くだらない妄想が浮かぶ。

(値段、間違いじゃないですか?)

(確認しますね)

(裏で社員がこそこそ話し合って――)

(やっぱり販売できません、って)


そんな想像をしつつ、並ぶ指先が少し冷える。

案外、小心者だ。


「990円になります」


あっさり通った。

小さく会釈して袋を受け取り、レシートを確認。

間違いなく110円×九冊。


帰りの電車、膝の上の袋を見てふっと笑う。

ハッピー。

帰宅後もしばらく、その気分は続いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ