タイムアタック
紗英は閉店前のブックオフで、文庫コミックの詰まったワゴンを発見した。
ワゴンからはお宝の雰囲気。
だけどお宝の気配に喜ぶより、間が悪い、の思いが勝った。
紗英がこの店、家電量販店2階にあるブックオフに入店したのは約30分前。
閉店時間も近いため、まずはざっと店内を流すつもりでいた。
が、思いのほかコミック棚の感触が良かったので、方針変更。じっくり眺めた。
小学館の青年コミックプロパーで、高額セットのラスト2冊を発見。ずっと埋まらなかった2冊で、これだけでも来た甲斐があった。
それからセットもの中心に拾い、コミックコーナーを八割がた見終えたころには、カゴの半分がコミックで埋まっていた。
閉店時間も近い、そろそろ切り上げようか。
そんなことを考えてたとき、件のワゴンを発見したのだ。
普段ならワゴン全体をざっとチェックして、良さそうなものを吟味すればいい。
だが先ほど、店内に閉店10分前のアナウンスが流れた。
会計のことを考えると、仕入時間は実質5分程度。
普段通りでは間に合わない。どうする?
紗英はまず、ワゴン全体をおおざっぱに視た。
下3段には文庫コミックがずらりと並び、全て110円のよう。いくつかのタイトルはセット売り狙いでいけそうか。
上段に並ぶのは、当たり障りなさそうなプロパーコミック。上段はないものと判断して、文庫コミックに的を絞った。
文庫コミックは3段とも上下2層になっている。上の列をどかさないと、下段は見えない。
まず見える部分から、拾えそうなタイトルをチェックした。
哲也、拳児、新鉄拳チンミ、死神くん。
哲也と拳児、後半の巻をまとめて発見。
哲也のセットをスマホでサーチ。全22巻、最安値は8000円近く。最終2冊が見当たらない。ほかのサーチは断念。
上の層から右から左へ一部抜いてゆき、下の層のタイトルをチェック。
多古西の塊を発見。最終巻からごっそり。
哲也、最終2冊も見つかった。拳児も最終巻発見。多古西が追加、これ全巻揃い?
多古西を全部カゴに入れた。カゴがほぼ埋まった。
そして閉店5分前のアナウンス。
タイムアップだ。
最後に哲也を抜いて、両手でカゴを抱え、レジに向かった。
そしてレジへ。
レジ打ちに集中する店員を横目に、紗英は気になりつつ結局仕入れなかったコミックを振り返った。
新鉄拳チンミ。これは早い段階で切った。
仮に全巻揃ってても、これまでの経験上、大した利益にならないと予測。
死神くん。全8巻で、ラスト付近の7巻8巻が見つからなかった。
とはいえ6巻はあった。6巻につながってほかにも2,3冊見つけてた。
死神くんの仕入は「アリ」ではあったが、すでにカゴの重さは紗英の持てるギリギリ。
ラスト2冊がないのもリスクで、スルーも仕方なし。
拳児は最終巻から中盤巻まで過半数以上あった。
売った経験も何度かあり、この状況なら手堅い選択ではある。
しかし拳児と哲也、両方買うと重くてレジまで運べそうにない。
迷った。
そして拳児を断念。哲也を選んだ。
哲也を選んだのは、脳裏にある言葉が浮かんだからだ。
「迷ったら常に高目へ向かえ」
紗英はその言葉に従った。