ザ・ファブル The second contact
紗英は先月リニューアルを終えたばかりのブックオフを訪れていた。
そして入口付近の、コミックセットの棚の前で立ち尽くしていた。
そこにあったのは、『ザ・ファブル The second contact』の全9巻セット。赤い50%OFFシールが貼られていた。値引き後の金額は2500円。
紗英は値札をもう一度見直す。間違いじゃない。
「……安すぎない?」
小声でつぶやいて、ファブルのセットを手に取った。
状態チェック。カバー、巻数の抜け、ヤケの有無。特に問題は見当たらない。
割引シールには昨日の日付。日付はこの値引シールが貼られた日を示す。50%OFFシールが貼られたのは昨日ということだ。
そうだろうな、と紗英は納得する。この店に来たのが明日か明後日なら、このセットはすでに売れていただろう。
プライスターで確認。
Amazonの中古最低価格は定価付近で安定。相場が崩れている様子はない。
それはそうだろう、最近、新シリーズが始まったばかりの超人気作だ。
というより、このマンガは確か買取強化対象コミックだったはず。
仮にこのセットを買って、そのまま別のブックオフで売りに出したら、2500円を超える値段がついてもおかしくない。
買取強化対象のコミックセットが50%OFF、しかも破格値。
これは紗英の経験からすれば、ありえないケースだ。
儲かった、という喜びより、驚きや疑いの感情が勝った。
言葉にするなら──
「こんなの、見たことない」
なぜこの価格?
考えられる理由を、順番に検討してみる。
たとえば、店舗独自の在庫処分。あるいは間違って貼られたシール。実は一部の巻が状態難ありで、あとでクレームになるパターン……。
おそらく「間違って貼られたシール」だろう。
この店は先月リニューアルオープンを迎えた。それと今回の出来事には関係がありそうな気がする。
リニューアルオープンで新たな業務がいくつも生じ、通常業務がおろそかになった。
その結果、このセットにおける売価判断を誤った……。
一応納得のいく推論が出て、紗英は思考を切り上げた。
考えてみても、結局のところ真相はわからないし、わりとどうでもいいことだ。
紗英はそのままセットを持って、レジに向かった。