[ベイビーステップ]
出張を終えた翌朝。
起きたのはいつもよりやや遅め──それでも7時前にはベッドを離れた。
生活リズムは、油断するとあっという間に戻らなくなる。
今日は「内勤の日」。
外へは出ず、仕入れた本のクリーニングや出品作業、レシートの整理などをまとめてこなす。
朝食を済ませ、仕事部屋へ。
まずは発送作業を片付ける。集荷は11時以降の取り決めだが、なるべく早めに終えるようにしている。
梱包を終えた発送物を集荷ボックスに入れて、ひと息つく。
棚の上にまとめてあったレシートの束を取り出し、日付順に並べていく。
仕入に使ったクレジットカードの控えは、対応するレシートの裏にセロテープで貼る。
それを、仕入店舗ごとにまとめたあと、簿記項目に沿って分類していく。
仕入、発送資材、駐車料金など。
ざっと分類を終えると、今度はノートに転記する。
現在使っているのは9冊目。せどりを始めてから、ノートはずっと手元にある。
(ついに10冊目。積み重ねてきたと、こういうとき実感するね)
この作業は、せどりを始めてからずっと続けている。
もともと几帳面な性格ではなかった。
それでもノートをつけようと思ったのは、『ベイビーステップ』の影響が大きい。
高校生の主人公・栄一郎は、几帳面な性格で、何ごとも記録して分析する。
テニスという身体能力の問われる競技で、頭を使って成長していく姿が異質で魅力的だった。
副業としてせどりを始めたとき、ふとその作品を思い出した。
確定申告のためという理由もあったが、「書いておけば、あとで見直せる」という安心感が大きかった。
レシートの内容をノートに書き写す作業は、退屈だし好きではない。
けれど、欠かせない行為だと感じている。
売上と利益だけでは見えてこない部分を、出費の記録が支えてくれる。
だから今日もまた、紗英は手を動かす。