【第8話】散歩、終了
【第8話】散歩、終了
任務を終えた。
この辺りに魔物は残ってないだろう。
キマイラは強力な魔物として恐れられているが、聖女の力はそれを凌ぐ。
「あ、魔石だ」
魔物を討伐すると魔物の体は煙を発して魔石という希少な石が出てくる。
だがあたしは興味ない。
ドロップアイテムの回収は基本的に騎士達に任せることにしているのだ。
「騎士様達、魔石の回収をお願いします」
「は、はい!」
と元気な返事。
「あっさり終わったな」「定時で帰れるなんて思ってなかった」「俺も。遺書とか書いてきたくらいだ」「分かる。命の覚悟してたのに、雑用で済むなんてな」「わはは。嬉しい誤算だ!」
騎士達は大笑いしてる。
機嫌がいいなら何よりだ。
あたしはあまり疲れていない。
聖女としての体質なのか、歩いても歩いても疲れないのだ。
調子の良い時は百キロくらい散歩余裕だし。
あたしは一応、村の周りを軽く散歩する。
聖女の魔力は索敵も兼ねてて、魔物の発する邪気に触れればどこに魔物がいるか分かることもある。
ふむ。
いないな。
この村に魔物はもういない。
浄化の力も充分に村中に行き渡ってるようだ。
村人達も元気そうにしてる。
よし。
「皇子。魔物がいないみたいなので、あたしは馬車に戻ります」
「あ、では、自分も……」
「! そうですね、お願いします」
そうだった、すっかり忘れてた。
帝国では聖女に護衛が必要なんだ。
これはあたしの落ち度だな。
報告連絡相談はちゃんとしないとね。
王国に続いて帝国でも解雇なんてなったら、流石にどこの国も雇うのを警戒するだろうし。
抜かりない様に頑張ろう。
◇ ◇ ◇
馬車に着くなり、皇子は呟いた。
「……聖女リリア。あなたは、奇跡の存在です」
「いえ、私は……ただ、歩いているだけですから」
「……謙遜にしても、凄すぎます」
うふふ。そうかな?
高評価してくれてるんだったら嬉しいなぁ。
そのとき、私たちの視線がふと重なった。
馬車の中、ふたりきり。妙に、空気が静かだった。
少しだけ、胸がキュンとした。
皇子も少し、気恥ずかしそうに眼をそらす。
「おほん。……こんなにすごい力を持っていたのに、なぜ王国はあなたを追放したんでしょう……?」
「『舞わず、祈らず、散歩しかしない女』に、一億ゴールドは高すぎたみたいです」
冗談めかして言うと、アレクサンドロスは苦笑した。
「では、帝国はもっと支払わないといけませんね」
「ふふ……期待してます」
「十憶ゴールドで足りるでしょうか?」
「じゅ、十億!?」
流石に驚いて体がビクッと震える。
「足りませんか?」
と首を傾げる皇子。
「いえいえ。むしろ、そこまで貰うわけには」
「そのくらいの価値はありますけどね」
「あはは」
「……」
夕日が差し込む車窓から、黄金色の光が揺れていた。
新たな日々が、今、始まったのだと実感する。
高評価、続けられたらいいな。