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【第7話】聖女、魔物相手に散歩

 聖女リリアはアレクサンドロス皇子と馬車で移動中。

 行先は帝都から馬車で半日ほどの村、フィオルド村。

 そこは、先代の聖女が頻繁に通っていた村だという。


「先代の聖女が亡くなってから、このあたりの森では魔物が定期的に湧くようになったそうです」


「定期的に……?」


「ええ。生態系が崩れたのか、あるいは……聖女の存在そのものが、結界のような役割を果たしていたのかもしれません」


「あり得る話ですね」


 村に近づくにつれて、空気が重たくなるのを感じた。

 土地が息をしていないような、そんな妙な感覚。


 私は馬車を降り、村の入口に立つ。


「……では、歩きます」


 ただ、それだけを言って、私は村の中を歩き始めた。


 土の上を踏みしめるたびに、地面に溜まっていた瘴気のようなものが、じわじわと薄れていく。


「あ。リリア様の足跡……草が生え始めてる……!」


 騎士の一人が声を上げる。


「マジじゃねえか」「すげえ」「こんなに効果がはっきりしてるもんなんだな」「もっと分かりにくいものかと思ってた」

 と騎士達が騒ぐ。


 皇子はため息をついて笑顔で、

「こらお前達。聖女さまの前で失礼だぞ?」


「「「「し、失礼しました!!!」」」」

 と騎士達は口を一斉に掌でふさぐ。


 あたしはクスリと笑った。


 騎士達が言ったことは、まさにその通りだった。

 私が通ったあとの土に、小さな若草が芽を出していた。

 半径五十メートルが直接の効果範囲で、恐らく間接的な範囲は半径一キロくらいに及ぶだろう。

 これがあたしの固有能力【聖路行幸セイントロード】だ。

 踏み歩いたところは効果が早く表れるので、すぐに癒されたり浄化されたりするから効果は分かりやすいよね。

 国立学園では「雑草撒きの分際で調子こくな」とか「除草しなきゃいけない人が可哀想」とか散々な煽られようだったけど、帝国民は喜んでもらえるらしい。


 歩いて良かった。


「……畑の作物も……立ち直ってる?」

「すげぇ、本物の聖女だ……!」

「聖女さますげええ!」


 騎士たちが感嘆の声をあげる中、私は黙って歩き続けた。

 すると、茂みの奥でごそりと音がした。


「魔物、接近──!」


 アレクサンドロス皇子が前に出ようとする。


 だが、私は一歩踏み出して、静かに言った。


「来ないでください。私が行きます」


「……リリア様?」


 私は魔物の群れに向かって、まっすぐ歩いていく。


 通常なら命知らずな行動だ。

 だが、魔物たちは……私の存在を前にして、苦しそうに呻き、やがてその場で崩れ落ちた。


「ぐ、グアアアアアッ……!」


「一歩も触れていない……なのに、魔物が浄化されている……!」


 私はただ、そこに“在る”だけ。


 それだけで、この地は癒えていく。


「この魔物達は……キマイラですか。成程、複雑なの魔力の流れが魔獣を次々に作り出してるという噂は本当のようですね」


 一歩歩く。それだけで、キマイラは弾けて、その肉は土に返っていった。

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― 新着の感想 ―
てにをは含む助詞を見直した方が良いかと。
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