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【第5話】聖女、再び歩き出す

 翌日の早朝。

 まだ陽が登りきらぬうちに、私は迎賓館の庭を歩いていた。

 あたしのスキル、【聖路行幸】が発動。

 枯れてたり萎れてたりする草木が生い茂り、植木職人が「あれ、なんか肩が軽いし腰痛が消えた。調子いいな……」とぼやく。


 あたしははにかむ。

 うん。やはりあたしの固有能力はちゃんと価値あるんだね。

 評価されるように頑張って歩こうっと。


 とことこと、町を一時間ほど散歩。

 どうやら帝都にも邪気は蔓延り、相当に人々は疲弊してたようだ。

 いや、人間だけでなく動植物も疲弊していたに違いない。

 馬車が元気になったり、犬が「あおーん」と元気に叫んでる。


「聖女の力って、当たり前のものだとどこか思ってたけど……聖女がいなくなったら町はこんなに荒廃しちゃうんだね……」


 花の香り、鳥のさえずり。どれも王国では感じなかった穏やかさがあった。

 不思議と、ここでの空気は肌に馴染む。


 と思ってたら、

 騎士たちが、突如私を取り囲んだ。


「え……」


「聖女様、困ります! 急に抜け出されるなんて」


「あたしはただ、日課の散歩を……」


「散歩聖女様ですからね」


 はぁ。と騎士はため息し、私に恭しく一礼した。


「私は国王親衛隊のペルディッカスです。今すぐ、お戻りを」


「は、はい……」


 確かに、無断で外出したのはいけなかったな。

 王立学園では「散歩しか能がないんだから、とっとと行ってこい」と言わんばかりの扱いで護衛とか侍女とかつけられたことなかったから、そこの配慮ができてなかった。

 反省しよ……。




◇ ◇ ◇


「おはようございます、リリア様」


 あたしが迎賓館に帰ると、アレクサンドロス皇子が待っていた。


「おはようございます。皇子」


 朝から軽装の軍装に着替えている。

 貴族服じゃなく、軍服しか見かけないな。


「これから外出時は誰か護衛を付けて下さい。貴方の身に何かあったら我々は悔やんでも悔やみきれません」


 大げさな。

 と言いたいけど、町の惨状を目のあたりにしたら頷いてしまう。

 聖女としてのあたしの力、王立学園に入ってから酷評され過ぎで自虐的になってるのかもな。

 帝都はあたしを必要としてくれてる。

 なら、彼らの言葉と気持ちを受け入れていかないと。


「はい、すみません。王国での暮らしは、その……自由気ままでして。あたしは護衛とか付けないで聖女として働いてたもので」


「護衛無し!? 聖女を!?」


 皇子は驚愕し、目を見開いた。

 そう、これが普通の反応だよね?

 やはり、護衛無しで一日二十キロ以上歩いてたのはやはり王立学園の怠慢なのだろう。

 王立学園、許すまじ!


「はい。護衛無しです」


「……すさまじいですね、王国の対応は」


 王国と言うより、王立学園だ。

 あそこの学長は国王より王子贔屓だったのも関係あるのだろうな。


「ごほん。お食事を用意しました。口に合うかは分かりませんが、是非ご堪能下さい」


「はい」





◇ ◇ ◇


 食事はそれなりに豪勢で、満足のいくものだった。

 いや……むしろまだ働いてないあたしに特上の牛肉やサメの卵などをくれてもいいのかと思うほどだ。

 キャビアとか初めて食べたよ、これ確か凄い高級品でしょ……。


「お口に会いましたか?」


 と皇子。あたしは彼の笑顔には笑顔で応える。


「えぇ。とっても美味しかったです」


「それは良かった」


「そこで、相談なのですが」


 アレクサンドロス皇子の顔に険しさが増した。


「はい。仕事ですね?」


「ええ。早速ですが、魔物災害が報告された村がありまして。……案内させていただいても、よろしいでしょうか?」


「もちろんです。準備はできています」


 私は小さく頷く。

 働かざる者、食うべからずという。

 散歩してるだけと罵られ、吊し上げられたのは耐え難い屈辱だった。

 この帝国で、汚名返上、名誉回復してみせる!

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