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【番外編2】散歩聖女を追放した者たちの末路

 王都エルズレインは、もはや『沈みゆく泥船』と揶揄されるようになっていた。

 魔物の被害は拡大し、土は枯れ、民の不満は高まり、税収は激減。

 人々は口を揃えて言った。


「聖女様がいたころは、こんなことはなかった」「リリア様が歩くだけで、村が息を吹き返した……あの加護こそが、国を支えていたんだ」「追放した者達は、極刑に処すべきだ!」「くたばれ、第一王子!」


 そしてついに──王国評議会が裁きを与えた。



〇 第一王子アーシュ:王位継承権、剥奪。奴隷紋、刻印。


「父上、なぜです!?  すみません! どうかそれだけは、それだけは!」


 王城の玉座で、アーシュは必死に叫んだ。

 だが、王は冷たい目で言い放つ。


「お前は、『国を潰す者』になりかけた。聖女を私怨で追放し、国益を失った。その責任は重い」

「死刑なら受け入れます! しかし、それだけはどうか、どうか!」

「黙れ! 貴様は教会からは『破門』! 王国評議会からは『奴隷落ち』だ!」


 王の怒声が響き渡る。


「恥を知れ。お前のような器の小さな男が、王になってどうする。今この瞬間をもって、お前の王位継承権を剥奪する!」

「う、うそだ……俺は……王子だぞ……! せめて、処刑に」

「宝剣は貴様を継承者と認めてる。宝剣の気は知れんが、余も殺す気はない。だから……奴隷として国の戦術兵器として酷使してやる」

「嫌だ、嫌だ! 奴隷扱いだなんて!」

「喜べ、ワイバーンの群れが現れた。リリアなら倒せる程度の相手だ」

「え……」


 アーシュは真顔になる。


「お前の才能を示すチャンスをやる。10年生き残ったら、平民扱いにしてやる。さらに10年生き残ったら、下級貴族に戻してやる。一生奴隷だがな!」

「嫌だ、嫌だ、嫌だあああああ!」

「聖女様を追放して、楽に死ねると思うな。苦しみながら、生きよ」


 アーシュは崩れ落ちるようにその場に座り込んだ。

 侍従たちは、もう彼に跪かなかった。




〇宰相の息子:領地没収、爵位剥奪


「宰相家嫡男、フォン・エクレール!」


 王は書状を破り捨てながら言い放つ。


「お前は聖女に対して『恩を仇で返す』態度を取り、王家の顔に泥を塗った。領地を腐敗させ、民を苦しめた責任もある」

「ま、待ってください陛下! あれは父の意向で――私は従っただけで!」

「ならば無能ということだ。どのみち、王国には不要。爵位と領地は即日没収。追放だ。また、教会からは破門扱いだ」

「ま、待って下さい、どうか、容赦を!」

「これはお前の父親とも相談済みだ! 路頭に迷うがよい!」


 数時間後、彼の屋敷には官吏が乗り込み、家財は差し押さえられ、使用人は解散させられた。


「くそっ……くそっ……なぜ俺が……!」


 街を追い出されたフォンは、地べたに這いつくばることになった。




〇軍団長の息子;軍法会議の後、奴隷紋


 奴隷紋が若い男、ドゼーに刻まれる。

「嫌だああああ! 俺は軍人貴族なんだ、奴隷になりたくないいいいい!」

 息子の身を案じ、その父は涙を流す。

「ドゼー。お前は誰より立派な軍人になれる可能性がある。父さんが地獄すら温い訓練をして、必ず戦場で生かしてやるからな!」

「怖いよおおおお!」


 国王は、少しばつの悪そうな顔を浮かべる。


「ドゼー。君のことは幼少期から知ってる。しかし、聖女追放は頭おかしい。なぜ、王子たちを止めなかった?」

「空気に流されて」

「最後の最後に、やっぱ止めようとかならなかったのか?」

「今更止められないって結論に」


 くわっと国王の目が見開く。


「有罪だ! 教会の破門扱いはしないが、奴隷紋を刻んでアーシュ王子に従軍し、武功を立てよ。十年あれば平民扱いに戻してやる!」

「嫌だああああ、怖いよおおお!」

「……」





〇 商人の子:特権取り上げ、市場追放


「大商会『フェレクト商会』の王国における専売特権を剥奪する。理由は簡単だ、言うまでもないな?。そして息子のボウルは破門扱いだ」


 王の前で震えるボウルとその父に、経済担当の議官が言い放つ。


「王立学園にて王国の財務状況を偽り、『聖女不要論』をでっち上げ、利益誘導を行ったな? それだけでなく、聖女に一億ゴールドは勿体ないと言ったとか。 その行為は国家反逆にも等しい」

「ち、違う! 俺は……王子に従っただけで……!」


 たじたじするボウルを、国王は睨んだ。


「知ったことか。お前の名前はすでに帝国の信用リストからも削除されている。王国だけでなく、大陸中で商売はできん」

「お、俺の……金が……!」


 市場から追放されたその日、フェレクト商会の看板は民衆によって焼かれ、石を投げつけられた。




〇エルミナ:聖女職剥奪、社会的破滅


 聖堂の前で、エルミナは告知を読まされた。

 エルミナだけは、王家との関わりが弱いので教会関係者が裁くのだ。


「聖女代行エルミナ・クレリアに対し、以下の処分を下す。聖女としての資格剥奪。聖堂立ち入り禁止。再任不可」

「……な、なんで……私は、ちゃんと祈って、舞って、努力して……! 舞だって、祈りだって誰よりも捧げたのに!」

「祈ればいいんじゃない。実際に効果があるか無いかは大違いだ」

「……っ」

「聖女様を追放など、恐れ多いにもほどがある。死罪にならないだけありがたいと思え」

「いやああああああ!」


 エルミナの悲痛な叫びに、誰も耳を貸さなかった。


 神父は静かに呟く。

「努力だけでは、神は微笑まない。リリア様の“祈らない力”こそ、本物だった」


 エルミナはその夜、街の片隅に佇んでいた。

 誰も近づかず、誰も声をかけない。


「……嘘よ……なんで私が……努力してきたのに」




◇ ◇ ◇


 帝国。


 聖女リリアと皇子アレクサンドロスのもとには、日々感謝の言葉と贈り物が届き続けていた。

 王国の元関係者たちが「再雇用」や「赦免」を求める文書を送りつけるも、リリアはただ一言だけ返した。

「お気持ちだけ、受け取っておきます。……それ以上は、不要です。あたしは今、毎日幸せですから」

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