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【番外編1】縁日デート

 夜。

 あたしの部屋に、アレクサンドロス皇子が来ていた。

 皇子は珍しく鎧も礼服も着ず、軽装であたしの部屋を訪れたのだ。


「リリア。まだ眠くない?」

「皇子様。どうしたんですか、こんな夜に……」

「連れて行きたい場所があるんだ」

「えー!?」


 皇子は微笑む。


「今夜は『聖女』じゃなくて、『リリア』としての時間を俺と過ごしてほしい」

「え、皇子様。そんな、恐れ多い」

「ははは。国唯一にして、歴代最高と言われる聖女リリアを連れ出すっていう俺の方が恐れ多いよ」

「な、何考えてるんですか。まだあたし達、会ってそんな日が経ってないって」

「だからこそだろう? 俺は君と、親睦を深めたいんだ。ダメ?」


 そう言って、手を差し出す。

 うぅ。

 どうしよう。

 この手をとっていいものか、どうか。

 皇帝の子供に手を出したら、いくら聖女とは言え、お怒りを買うんじゃ……。


 悩む!


 皇帝陛下は皇子を溺愛してるという。

 皇帝に目を付けられるわけには――、と思った。

 断ろう、と思った。


 しかし、皇子はまるで見捨てられた子犬の様に俯き、

「リリアは、俺と一緒に夜遊びするの、嫌?」

「――!」


 か、可愛い!

 ……仕方ない。覚悟を決めよう。


 リリアは一瞬戸惑った。

 そこで、寝間着を脱ごうとして、

「あ、これ」

「はい?」


 皇子に軽装を渡された。


「これに着替えて」

「……着替える?」

「うん。いつもの格好じゃ聖女ってバレちゃうでしょ? だから、変装!」

「……あ、どこかへ行くんですっけ?」

「そうだよ。じゃなきゃ俺、こんな格好してないって」


 見れば、皇子の格好は動き易そうだった。

 外出用なのは、今更だ。


「……それも、そう、ですね」


 っふ、余計なことを考えてしまったか。

 あたしって、本当に馬鹿。


 と内心で自虐。


 こうして、あたしは軽装に着替えて、アレクサンドロス皇子に連れられるままやって来た。

 帝都、第一市場に。


 アレクサンドロス皇子と手を繋いで、お互いはぐれないように歩く。


「今日、縁日なんだ」

「縁日?」

「お祭りの日ってこと」

「あー」


 何の日か分からないけど、お祭りらしい。

 カレンダーを今朝見たけど特別な日と載ってなかったから地元民だけのお祭りかな?

 それにしては、かなり人が多いな。


「夜は夜で、昼間とは別の活気があるよね」

「確かにそうですね」


 町を見渡せば、子供がいない市場で夜の取引が行われている。

 大人向けのアルコール飲料で、町人たちがごった返しだ。


 二人でフルーツ飴を買ったり、民芸品を見たり、肩がふと触れる距離を歩く。


「……うふふ」

「どうした、リリア?」

「最初は気乗りしなかったのですが」

「うん」

「皇子と一緒だと、どこでも楽しいなって」

「――!」


 皇子は、そっぽを向いた。

 ちらりと見ると、耳を赤くしてる。

 うん。

 皇子って、よく耳を赤くするよね。

 死ぬまでこの反応は黙ってよっと。


 あたしはほくそ笑む。


 あ。

 聖女様のお守りとか言うのが売ってる。


「ごめんね。あぁいうの、止めさせようか? 今じゃなく、今度だけど」

「……」

「君は人気者だからどうしても、あぁいう商売をする奴らは現れる」


 皇子の言葉は嬉しい。

 しかし、あたしが思ったのはそこじゃない。

『恋愛祈願』……!


「皇子」

「うん。止めさせようか?」

「いえ。あのお守りが欲しいです」

「は?」


 皇子は驚いていた。

 え、そんな驚く?


「君はこれ以上ないほどに祈りを必要としていないんじゃ」

「欲しいったら欲しいんです。アレ、買ってきてくれません?」

「いいけど……」

「やった!」


 皇子はてくてくと歩いて、買ってきてくれた。

 嬉しい。

 あたしはそれを、付ける。


「えへへ」

「君の非公式グッズを君が買うなんて」

「嬉しいので」

「ま、一応お揃いで僕も買ったよ」

「あ」


 皇子はお揃いのお守りを見せてくれた。

 ペアだ……。


「これ、必要ないけど……嬉しいよね」

「お守りは必要ないと?」

「だって、僕の最高のお守りは君だから」

「まぁ」


 ……ふふふ。

 言われてみれば、確かに。


「リリア、ちなみにね?」

「はい」

「今日の縁日は、聖女リリアが来て一か月を祝う為の祭りだ」

「はい!?」

「気づかなかったのか」


 周りを注意深く見れば、『聖女リリア一か月祭り』とところどころに書いてる。

 え、え~!?

 来て一か月経っただけで、祭り!?


 あたしは真っ赤になって、フルーツ飴を落としそうになるのだった。

 皇子はそれを見て苦笑する。

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