【第18話】結婚式(本編最終話)
その後の帝国は、聖女リリアの加護により、かつてない繁栄を迎える。
聖女リリアの固有能力【聖路行幸】と神器《聖杖イリス》。
この二つが組み合わさり、帝国各地に聖女の加護が行き渡ったのだ。
魔物災害は大幅に減り、人々は日々の暮らしに希望と元気を取り戻していった。
王国はというと──国境の一部で帝国と共同の魔物対策を始め、少しずつ関係改善に努めている。
けれど、リリア・アークライトが王国に『帰る』ことはなかった。
◇ ◇ ◇
春。
帝国の中心で、新しい式典が行われた。
帝国皇子アレクサンドロス・ヴァルハルトと、聖女リリア・アークライトの結婚式。
百を超える魔物災害を鎮静化し、労働者を元気にし、他国との関係改善を成し遂げた聖女と皇子の結婚に反対する者は一人もいなかった。
花が舞い、鐘が鳴り、人々が祝福する中、聖女リリアは静かに目を閉じた。
「リリア様」
「はい」
侍女に呼ばれ、リリアは返事をする。
ウェディングドレスを着慣れないのと、結婚式という人生のビッグイベントは百戦錬磨で『ドラゴン殺し』と言われるリリアをも緊張させていた。
ちなみに、リリアが『ドラゴン殺し』というのは皇帝と皇子が緘口令を敷いて、「国家機密」にしているので、リリアは自分のあだ名を知らない。
リリアはぼーっと考えていた。
侍女は質問する。
「リリア様。何か考えられてるのですか?」
「えぇ。あのとき……追放されてよかったなって」
「まぁ」
侍女は苦笑する。
「すべてを失ったと思っていたの。でも、本当に大事なものは、そこから始まった。追放されなければ、皇子と出会って帝国の人達と出会うことなんてなかった」
「リリア様……そう言っていただき、あたし達もこの上なく嬉しいです」
と言う侍女は、涙を流してしまう。
「今、私はちゃんと隣にいたい人の隣にいる。一緒にいたい人達と、肩を並べて歩いてる気がするの」
「え、リリア様と肩を並べて歩く?」
「えぇ!」
「ドラゴンころ……お、おほんおほん!」
「?」
「な、何でもありませんわ」
「そう? 咽てたけど、風邪には気を付けてね」
「は、はい!」
ドレスが整え終わる。
「リリア」
「皇子様」
「アレクサンドロスって呼んでくれよ」
「は、恥ずかしいなぁ……」
「お願い」
「……」
聖女リリアとアレクサンドロス皇子の関係は進んだが、それでも呼び捨てにはまだリリアはなれてない。
「あ、アレクサンドロス」
「うん」
アレクサンドロス皇子は、掌を差し伸べる。
リリアはそれを受け取る。
「一緒に、歩こう」
「えぇ」
聖女と皇子が、二人一緒に歩いて行く。
その先には、ウェディングケーキがあり、初めての共同作業が待ってる。
聖女リリアははにかみ、アレクサンドロス皇子は微笑む。
皇帝と皇妃、宰相や騎士団長が待つ披露宴会場の扉が開いて、二人はケーキの前に進む。
仲良く、ケーキに入刀するのだった。
これで、本編は終わりです。あと少しだけ番外編を書いて、終わります。




