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【第17話】聖女の隣にいる人

 帝都の朝は静かだった。

 昨夜の決闘の余韻を残しながらも、街はいつもと同じように目覚めていく。


 私は城下を見下ろすバルコニーにいた。

 聖杖イリスを手に、ただ風にあたっていた。

 これがあれば、散歩しないでも殆どの場所に聖女の力を送ることはできる。

 だけど、気づいたのはあたしの聖女の力は散歩してる時に一番活性化してるようなのだ。


 聖杖イリスの力を使うからこそ、気づいた。

 聖女の力を送るにしても、散歩してる時の方がより強い力を送れてる。

 ……結局、あたしは散歩聖女なんだね!


 あたしは空気を硬いと感じやすい。

 刺々してて、どこか不安になる様な空気。


 けれど、今日はどこか、空気が柔らかい気がした。

 いや、最近はいつもこんな気分で朝を迎えてる。


「おはようございます、リリア様」


 声に振り返ると、アレクサンドロス皇子が立っていた。


 どこか表情が柔らかく、以前よりもずっと自然体に見える。

 打ち解けてきたってことかな?

 最初に会った時よりあたしと彼の仲が深まったような気がする。


「おはようございます、アレクサンドロス皇子」


「元気そうで何よりです」


「……皇子。決闘の傷、平気ですか?」


「平気です。あなたの加護が、ちゃんと守ってくれましたから。むしろ今までより調子が良すぎるくらいです」


「まぁ」


「ドラゴン討伐とか行けそうです」


「えー。けっこう大変なんですよー?」


 あたしは皇子を諫めたつもりだった。

 ドラゴンは強いんですよ? とね。

 舐めてかかったら、大けがしますよ、とね。


 しかし皇子は大きく目を見開いた。


「いや、その、冗談のつもりだったのですが」


「ふぇ?」


「ははは。リリア様といると、常識が狂いそうです。ドラゴンなんて、討伐対象にするものじゃないんですよ? 普通の国では、ね?」


 彼の声が、ゆっくりと落ち着いて響く。

 ……言われてみれば、そうなのかも。

 他の聖女が「ドラゴン討伐? 死ねって言うんですか!?」とキレてたり、「遺書書いてきました」とか言ってたもんね。

 あたしだけ、「今日も生きて帰るぞー」と今思えば一人だけ軽いノリで行動してた。

 うん。

 常識では……ドラゴンって戦う相手じゃないんだろうな。


「……俺は、アーシュ王子を倒せたことで、自分が強くなれたと思っていた。でも違った。本当に強くしてくれたのは──リリア、あなたなんです」

「……」

「当たり前の話ですが、貴方がアーシュ王子を加護したら、アーシュ王子が勝ったでしょう」

「それはそうでしょうけど」

「あっはっは、聖女様ってのはとんでもない存在だ! どんな男より、聖女様の方が偉いってのも分かります!」


 あたしは目をぱちくりさせてしまう。

 彼は器が大きいのかもしれない。

 聖女の力を、自分よりも強いとこんな風に言われたのは初めてだ。

 男性はどこか「直接戦う自分の方が上」としてるとこはあった。

 今思えば、歩くだけで魔物を破裂させるあたしのスキルは騎士達からすれば面白くないだろう。


 楽、ではある。

 しかし活躍を奪ってるとも言える。

 調子にのってるつもりはないけど、自分の仕事をこなすのに精一杯で周囲の人にどう思われてるかなんてあまり気にしてなかったな。

 ……。


 もうちょっと、周囲の人と話す機会があれば王立学院でも孤立せず友達が一人くらいできたかもしれない。

 討伐任務続きで、それは無理だったけど。

 今更気にしても、もう遅いし。

 今気にすべきは、今目の前にあることだ。


「リリア様」

「は、はい」


 アレクサンドロス皇子は片膝をつけ、あたしに頭を下げた。


「あなたは、俺に光をくれました。そして、俺はその光をくれる貴方の隣に、ずっといたいと……そう思ってしまったんです」

「――!」


 ヤバ。

 かなり気恥ずかしい。

 そのまま、彼は私の手を取った。


 うわぁあああああ!

 あたしは、平静を装うけど、胸がかつてないほどに鼓動を強くしてしまう。

 お、落ち着け。

 ドラゴン相手に戦った日々を思い出せ、聖女リリア!


 ……ドラゴンより、イケメン皇子のが相手にするの、大変だよぉおおおお!


「リリア。こんな気持ちになったのは……初めてなんです。好きです」

「あの、その」

「貴方を愛してます」


 あまりに真っ直ぐな言葉に、胸が高鳴る。


 誠実で、強くて、優しくて。

 でもちょっと不器用で、歩調を合わせてくれた人。


 いつの間にか、私の心の中に、彼が根を張っていた。

 あたしは顔を真っ赤にして、頷く。


「……ぜひ。よろしくお願いします、アレクサンドロス様」


 私がそう告げると、彼はふっと、緊張を解いたように微笑んだ。

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