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【第16話】アーシュ王子たち、帰る。騎士リオンの謝罪

 後日。

 治療をある程度終えた王子アーシュが、馬車へ乗り込む寸前。

 騎士団長の息子リオンが、私に一礼しながら近づいてくる。


「……リリア様。あの方々には、本当に申し訳ありませんでした。俺は……あなたの味方です」


 私は、優しく首を横に振った。


「私はもう……彼らを許していますよ。今後、関わらないでくれるなら」

「――っ」


 騎士リオンは、顔を顰めた。

 彼にはきつい言葉かもしれないけど、あたしの心は決まってる。


「もし会うことがあっても、最低限の対応だけで充分です。勿論、これ以上帝国の人々に非礼があれば、私は一生許すことができないでしょう」

「は、はい!」


 と騎士リオンは頭を下げた。


「あと、これは餞別なのですが」

「は、はい」

「国王陛下は忙しく、私に構う時間はなかったのでしょう。よくよく考えれば、私に非礼をしたのは王立学園の人達であり、他の方々は非礼をしてません」

「聖女様……」


 じーん、と騎士リオンは感動して泣いてる。

 あたしは、手紙を差し出した。


「なので、これが餞別です。中にはアーシュ王子に筋トレや剣技や魔力操作よりも、マナーとか礼節とか品性を鍛えるように書いております」

「あ、あ、その、ご尤もです」

「今回帝国に行った非礼な暴言の数々の記録が書いてあります」

「い!? い、いや……」


 リオンは、泣きそうな顔で、委縮している。


「……王国の未来を思えば、必要なのでしょうね。むしろあの王子には報復が怖いので、皆が従ってる」

「……」


 成程。王子が贔屓されてるのは肩書とか血筋だけじゃなく、あの性格と強さもあったのかもな。

 あたし、鈍感なのかな?

 全然気づかなかった。


「異国にいて、強い権威と力を持つ聖女様だからこそ言える言葉がある。この手紙、ありがたくお受けします」

「リオン。貴方のことは嫌いじゃないわ。もし追放されたら、帝国に来てね」

「……いえ、俺の国は王国です。帝国じゃない」


 その言葉に、あたしは彼の持つ美しい愛国心を感じた。

 あたしよりも、アーシュ王子よりも、この騎士のような人が国を本当に愛してるんだろうなとふと思った。

 リオンはあたしに、深く頭を今一度下げた。


「聖女様。誠に申し訳ありませんでした」

「……謝るべきは、貴方じゃないのだけど」

「っ」

「それでも、その謝罪は受け取っておくわ」

「! 誠に、ありがとうございます!」


 そして、馬車が動き出す。

 怪我を負ったアーシュの顔は悔しさに染まりながら、もう一度私を振り返ることはなかった。


 ……リオンは、大した騎士だった。

 あれだけの高潔な騎士を抱えているなら、王国もまだ捨てたものではないわね。

 勿論、王子達が台無しにしてしまうかもしれないけど。



◇ ◇ ◇


 馬車の中。

 お通夜のような重い空気の中、アーシュ王子が口を開く。


「剣で負けたのは、生まれて初めてだ」

「それは、あたしの力が弱かったから」


 エルミナは自分の責任だと言う。

 しかし、アーシュ王子はそれを険しい顔で否定する。


「くどい」

「あ、アーシュ王子」

「俺は聖女の力など、大したことないとどこか思っていた。しかし、違う。あの加護の力は……とんでもなく大きいものだった」


 アーシュ王子は、悔しみのあまり、掌を強く握りしめて血が流れる。


「俺が悪い。俺が悪いんだ。あんな力を持った女を罵倒し、吊し上げ、あの女がやってたあらゆる加護に何も気づかず、愚かにも追放した。それで国が傷ついた」

「でも追放は、あたしがリリア様に嫉妬したのが始まりで」

「全て俺が悪い」

「王子……」


 王子は周りの友人と部下たちを見て、断言した。


「今回は全て、俺の責任だ。剣によってしか相手を測れない脳みそ筋肉。聖女リリアを追放した責任は、宝剣レイグランの返還と王位継承権の破棄でさえ、足りないかもな」

「王子、そんなことは!」

「剣士はな? 剣を交えると相手の心が分かってしまうことがある」

「……?」


 エルミナは小首を傾げる。

 アーシュ王子はフッと笑う。


「アレクサンドロス皇子の1%でもリリアを信じてやれば、俺はこんな失態をしなかった。俺が悪いんだよ。どんな処罰でも受ける」

「何で、そんな……今までと違うことを」

「知れたことよ」


 王子は、宝剣レイグランを見つめる。


「俺は剣によってしか相手を測れない。だけど、剣によって、アレクサンドロス皇子を俺は測った。俺はあいつに負けてないかもしれん。だが……聖女リリアに負けたのだ」


 エルミナは笑顔で王子を励ます。


「そうですよ。あの化け物に負けるなんて、恥じゃない!」

「……あの化け物を測れなかったことこそが、剣士として恥であり、罪なのだ」

「……」

「国王に打ち首を命じられても、仕方あるまい」


 重い空気は、ますます重くなる。

 だが王子はその空気を自分の心で受け止め、処罰を覚悟するのだった。

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