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【第14話】決闘、そして聖女の加護(後半)

 アーシュ王子がアレクサンドロス皇子に切りかかる。


「どうした? お前も『加護』を受けてるんだろうが! それとも聖女リリアの加護は、そんな程度のものなのか!? 複数の聖女に加護を受けてるとは言え、俺の加護は遠隔。傍にいるお前の方が有利だと思ったけどな!」

「勝負はまだ始まったばかりだ。分からない」

「あっはっは。もう分かり切ってる感じがするがな!」


 アーシュが嘲笑するように叫んだ。


 ……その言葉に、私は動きを止めた。


 ……私の加護が弱い?

 ちょっとムカつく。

 私は、皇子に──『まだ』専用の加護を与えていないのだ。


 聖女の加護は、広く万人に渡す弱い加護と、少数の契約者に渡す強い加護がある。

 今あたしは広く万人に渡す弱い加護だけをアレクサンドロス皇子に与えてる。

 流石に、時間が無かったのだ、強い加護を皇子に刻印する為の時間が。

 安全にやるなら1週間かかったりするからぁ……。


 あたしはギュッと下唇を嚙み締めてしまう。


「──リリア様。今のお気持ちは?」


 隣にいた帝国宰相が、そっと尋ねた。


 私は、迷っていた。


 正しさで言えば、皇子に加護を与えるのが当然だ。

 でも、心が……ためらっていた。

 今ここで試合を中止してなんて言ったら、皇子の名誉に傷がつく。

 だけど、負けるよりはマシなんじゃないか、と。


 そのとき。


 剣戟の音がまた響き、アーシュの剣が皇子の肩を掠めた。


「っ……!」


 観客席に緊張が走る。


 私は、目を閉じた。

 私は、誰に……この『力』を使いたい?


 間違いなく、アーシュ王子なんかじゃない。


 脳裏に浮かぶのは──、


 風の中、私に笑ってくれた人。

『散歩女』と嘲られても、決してあたしを否定しなかった人。

 魔物を前に、私を庇って立った人。


 私は……アレクサンドロス皇子が、好きなんだ。


 その瞬間、私のが持っていた聖杖が淡く光った。

 神器《聖杖イリス》が震え、天から一条の光が皇子へと降り注ぐ。

 そして、アレクサンドロス皇子の右腕に聖なる紋章が刻まれる。

 ……聖杖イリスは、聖女の力を遠隔かつ高速で使うことが出来るみたいね。

 知らなかった。


「──これは……!」とアーシュ王子。

「聖女リリア様の……加護!」とアレクサンドロス皇子。


 皇子の動きが変わった。

 軽やかに、鋭く、まるで体が一段軽くなったかのように──


「おい……なんでだ……っ!」

「凄いな。疲れが飛んで、力が漲ってくる」


 アーシュの顔が青ざめる。


「アレクサンドロス! お前の力は、既に加護を受けていたはず。でなければ、あれほどの強さになるわけが」

「リリア様は、弱い万人用の加護しか私にはかけてない」

「!?」

「お前はそれほどの素晴らしい聖女に悪態をつき、罵倒したのだ」


 王子の顔から、余裕が消える。


「……っ。なぜお前に……お前に力を貸すなんて、リリアは元々王国の……!」

「リリア様が……『俺を選んだ』んだ」


 皇子の声は低く、静かだった。


「お前が、彼女を『不要』と捨てた時点で、もう……選ばれない側だったんだよ」

「く……!」


 アーシュが魔力を込め、宝剣レイグランを光らせる。

 だが、皇子はそれを正面から受け止め──、パリィからの一閃。

 剣の軌跡が一閃し、アーシュの腕から神器が弾かれた。


「っ……!」


 地面に転がった宝剣。

 王子は膝をつき、肩で息をする。


「くそ……」

「ふぅ」


 帝国の騎士団長が一息ついて、ゆっくりと立ち上がった。


「──勝者、帝国皇子アレクサンドロス・ヴァルハルト」

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