【第13話】決闘、そして聖女の加護(前半)
王宮近く訓練場。
円形の観客席には帝国の将校たちと、王国の随行者たちが静かに座っていた。
審判は帝国側の騎士団長がやるようだ。
「帝国皇子、アレクサンドロス・ヴァルハルト。神器《黒曜剣エリュシオン》を持って参戦」
と言ってあたしから見て右側を掌で示し、
「王国第一王子、アーシュ・ベラフォルド。神器《宝剣レイグラン》を所持」
と言ってあたしから見て左側を掌で指す。
二人の神器がそれぞれの手に収まると、空気が一変する。
神器が、光出した。
お互いの神器が、持ち主を認めているのだ。
宝剣レイグランは血筋に反応すると言われてるタイプだから、持ち主の心とか気にしないんだろうね。
あたしの聖杖イリスは杖の持ち主の力と心を試すらしい。
王族って得だな~。
「アーシュ王子、覚悟せよ」
「アレクサンドロス皇子。後悔させてやる」
うん。
お互いの仲は出会ったばかりなのに最悪と言った様子。
「では、これより正式な決闘とする」
皇帝の宣言とともに、空気が静まり返った。
◇ ◇ ◇
黒曜剣と宝剣が交差する音が響いた瞬間、火花と砂埃が舞う。
アレクサンドロス皇子の剣筋は鋭く正確で、一切の無駄がない。
それに対し、アーシュは豪快な力任せの剣──しかし、その背後には確かな『強化』があった。
これは、加護の力だ。
……宿ってるのは、単なる魔法使いの加護であって、聖女の力ではない。
でも、その力は明らかに天才のそれ。
これは……エルミナの力ね。
やはり彼女は天才魔女……だけど、聖女ではない。
強化された膂力と反応速度によって、アーシュ王子はアレクサンドロス皇子に猛攻を仕掛ける。
見た感じ、アーシュ王子の方が僅かに、だけど確実に有利だ。
「ふっ、どうした? 帝国最強だって言ったんじゃなかったのか?」
「自惚れるだけの技量と力はありますね、アーシュ王子。キマイラ三体分くらいの強さはある」
「今更後悔しても、もう遅いぞ? 完璧に叩きのめしてやる!」
「っふ。勝つのは私さ。貴方が……そこの魔女の加護を受けていてもね!」
「ふん」
アーシュが魔力を放出し、自らを更に活性化させる。
アーシュの動きがやたらと速く、強い。
「はぁ!」
とアレクサンドロス皇子が無駄のない動きで一瞬の隙を突く。
しかし、
「効かねえよ」
「!? 馬鹿な……」
「宝剣レイグランは我が王家のあらゆる戦争に勝利をもたらしてきた最強の剣。お前の黒曜剣も大した剣だが、お前はその性能を引き出せてないだろ」
「!」
「剣士としての技量ならお前のが上だ。しかし、武器と仲間から受けてる加護は、俺のが上なんだよ! 魔力斬!」
アーシュは魔力を斬撃に込め、斬撃を飛ばした。
とんでもない威力だ。
だがそれだけではない。
何よりも、打たれても傷一つつかないその様子に、観客席がざわめく。
「……あれ、聖女の加護じゃない?」
「王国の聖女たちが……遠隔で加護を?」
私はハッと息を飲む。
加護を使ってる……!?
でも、王国に残された聖女たちは私よりも弱いはず。
それに、こんな離れた場所に、国外に聖女の力を届けるなんて……。
その時、あたしは感じて気づいた。
魔女エルミナが聖女の力を集めて、アーシュ王子に遠隔で渡しているのを。
……エルミナのスキルは、聖女の力の媒介か!




