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【第12話】皇子と王子

 アレクサンドロス皇子が淡々と、


「……まさか、自ら追放した聖女様を取り返しに来るとは。品位の無い行動をされると、貴方の面子は丸つぶれですよ?」


「うるせえな。一刻も早く、その聖女を返せ」


 なんて口のきき方。

 王子と言うなら、もう少し上品な言葉遣いをすればいいのに。


 あたしは、隠れてたのだがとうとう黙ってられずに出ることにした。

 神経使うなぁ。


「お久しぶりです、アーシュ王子。帝国まで、何のつもりでしょう?」


「おぉ! 聖女リリア・アークライト。俺は寛大だ。お前の非礼を許してやる!」


 遠くから聞こえた声。

 堂々と胸を張り、アーシュは言い放つ。


 寛大さなんて欠片も感じないよ……。


「帰ってきていいぜ。お前を……また『聖女』として、雇ってやるよ」


 周囲が静まり返る。


「……」


 私は答えず、視線だけを落とす。

 それを見て、帝国の護衛騎士たちがピリついた気配を見せた。


 私の答えは単純だった。


「嫌です」


「リリア、お前の意思なんか関係ない。お前は帰って来ないといけないんだよ。一千万ゴールドで雇ってやる」


 その言葉は、あたし以上に周囲の者達が動揺した。


「聖女を一千万ゴールド?」「相場より安いな」「最低レベルの聖女でさえ四千万ゴールドはするよな?」「リリア様なら二十憶ゴールドくらい出していいと思うけど」「ね」


「っち。外野がうるせえな」


 アーシュ王子は周囲の人々を睨む。

 ここにいる人は国の重臣が殆ど……外国でその振舞が出来るなんて凄いな。

 でも他国の王子相手に怒るなんて、誰もできないよね……と思ったら、


「その口ぶりと振舞……お前、何様のつもりだ?」


 アレクサンドロス皇子の声が冷たく響いた。

 アーシュ王子を『お前』呼ばわりしたのは、多分王国の国王陛下を除けば、アレクサンドロス皇子が初めてだろうな。

 アーシュ王子はピクピクと青筋を顔に浮かべて、苛立っている。


「皇帝陛下は勿論、帝国皇子の私や、臣下達の前で、お前の態度はあまりに無礼だ! そしてリリアに謝れ!」


「ふざけるな! 俺は王子だぞ! 王国の第一王子、アーシュ・ベラフォルドだ!」


 アーシュが皇子に向かって怒鳴る。


「俺は貴様のような衰退国家の皇子と格が違うんだよ!」


「何だと!?」


「格下のお前に謝る? 格上の俺が? はっ、笑わせるな!」


 宰相の息子フォン、新聖女とされたエルミナ、その他の者達全員が青ざめた顔でアーシュを見ている。

 だが止められない。王子の暴走は、いつもこうだった。


「国力だってそうだ! 我が国の方が貴様らより上! 貴様らの帝国など、所詮は落ち目だ!」


 アレクサンドロス皇子の瞳に、わずかに怒気が宿った。

 そりゃこれだけ侮辱の言葉をかけられたら、内心穏やかでいられないよね。


 そして――その場で、皇帝に向かって膝をついた。


「皇帝陛下、決闘の許可を」


「……は?」


 思わず私が小さく声を漏らしたのと同時、皇帝が苦笑を浮かべる。

 皇帝は自分の顎を軽く抑えて、


「国の跡目同士の争いか……。もめ事は避けたいのだがな?」


「びびってんのか、格下国家!」


 と王子。

 あの人、あたしだけじゃなく他国の皇帝にあの態度ってすごいな。

 外交とか下手そう。いや、内政も下手かも。

 あたしを追放して、多分誰かに怒られて帝国に来てるわけだしな。


 ……王子を怒れるってことは、まさか国王陛下?

 辺境の図書館に調べものをしに行ってるから当分は帰って来ないはず。

 あたしが追放されたのを聞いて、問題視したとか?

 考えすぎ、かな?


 皇帝はイラっとした顔に一瞬なって、すぐ真顔に戻った。


「リリア殿に危害を加えぬなら、許可しよう。だが、軽傷で済ませよ」


 皇帝の許可が下りた瞬間、アレクサンドロス皇子が笑い、アーシュの顔がニヤリと歪む。


「いいぜ。雑魚皇子……かかってこいよ」

「アーシュ王子。少しその態度を直すことをお勧めしましょう」


 アレクサンドロス皇子は鋭い眼光で、アーシュ王子を睨む。


 ……とんでもないことになったのでは?




◇ ◇ ◇


 皇帝陛下は、「戦うなら中庭にせよ」と仰せられた。

 アレクサンドロス皇子の武器が用意の手筈が始まる。

 アーシュ王子達も、神器にエルミナが魔力を込めたり、宰相息子のフォンが決闘手続きの書類を熟読して死にそうな顔でサインしたりしてる。


「……え、神器を使っての、け、決闘って、本気なんですか?」


 あたしはそばにいた帝国の宰相に尋ねた。

 宰相は頷く。


「ええ。皇子はこう見えて、本気ですよ」


「でも、相手は……王子だし、神器もあるって……」


「リリア様、ご安心を。アレクサンドロス皇子の武勇は、間違いなく帝国最強です」


 そう断言する彼の顔には、微塵の不安もなかった。

 帝国最強?

 確かに、騎士達と一緒に魔物討伐をしていたアレクサンドロス皇子の立ち回りも剣閃も見事なものがあった。

 王国の騎士団長オレステイアさえ凌ぐかもしれない。


 それでも私は、胸の内に静かに沸き上がる不安を抑えきれなかった。


 あの王子の傲慢さも、力を甘く見てはいけないと知っている。

 アーシュ王子もまた、王国にて類まれな才能を持った戦士とされたのだ。

 そして神器の力も甘く見てはいけない。

 というか、神器は本来魔物相手に使うものであって、人間同士の戦いで使うなんてあまり例が無いんだよな。

 どちらが勝つにせよ、無事ですむ訳が無い。

 どうしよう。あたしは、聖女として公平な立場を選ぶべきか。

 一瞬、そう思った。


 けれど、ふと思い出す。


 帝国の村で、皇子が笑いながら私の『散歩』を守ってくれたあの日のこと。

 今日、『休日の使い方をこれから知っていけば良い』と言ってくれたこと。


 私は……。

 皇子の方を助けたい。

 一人の人間として、女性として、あの人を助けたい。

 贔屓してくれる人を、贔屓したい。

 ずっと義務だけで生きてきたあたしに初めて、そんな気持ちが宿った。


 大切に扱ってくれる人の傍にいたい。


 だから皇子に負けて欲しくない。

 そう思った時、心が決まった気がした。

 あたしは、帝国でやっていこうと決めた。

次の投稿は19時過ぎか20時過ぎです。一応、今日中にあと数話投稿を続ける予定です。

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