【第11話】王子、帝国にやって来る
帝都近くの門にて、アーシュ王子が吠えていた。
「俺は王国からの正式な使いだ。さっさと開けろ!」
書状を関所の門番たちが確認。魔力紋章の照合が終わる。
「第一王子アーシュ・ベラフォルド殿、帝国への来訪を許可します。ただし、武器の携行は禁止です」
「うるせえ、やるのか? 俺と、お前らが」
「っひ!」
アーシュ王子は魔力を放出し、威圧的な態度をとる。
一般兵士では到底太刀打ちできない膨大な魔力。
兵士たちが怯えるのは無理がないことだった。
衛兵の宣言が響き、城門が開かれる。
その中央を、堂々と歩いてくる一団。
アーシュを筆頭に、王国の貴族子息たち、そして――エルミナの姿もあった。
◇ ◇ ◇
アーシュ王子はじろじろと帝都を観察し周囲の者に、ふと呟く。
「寂れたって聞いてたけど、思ったより活気があるな」
「聖女リリアの影響でしょうか? 彼女が去ってから王国でも体調不良を訴える者が多くいますし」
「エルミナ。何を言ってる? あんな散歩女は大したことないって言ったの、お前だろ!」
「っ、はい。申し訳ありません」
エルミナの言葉に気を悪くしたアーシュ王子は、気を取り直して宮殿を見る。
「行くぜ。皇帝の宮殿はすぐそこだ。いざとなれば、武力で聖女を取り返す」
その言葉には、側近たち全員が絶句した。
「しょ、正気ですか? 外国相手に聖女の拉致なんてやったら外交問題に――」と宰相息子のフォン。
「うるせえ。俺、正論って嫌いなんだよね。正論を言う奴って、相手を傷つけることしかしないって分かれよ。俺にロジハラする奴はただじゃ済まねえ」
「……王子。穏便に済ませましょう。でなければ、王からの信頼も回復できません」
「っち。分かったよ。穏便に済ませることができるなら、穏便でやるよ」
「はぁ……何で、こんなことに」
肩を落とすフォンに、アーシュ王子は睨みをきかせる。
「決まってるだろ。あの散歩女のせいだよ! 全部、あいつが悪いんだ!」
「「「「……」」」」
誰も、何も言い返せなかった。
「俺は絶対、あの散歩女に頭下げないからな!」
◇ ◇ ◇
皇帝の宮殿。
「よう。皇帝陛下殿」
「うむ。アーシュ王子。どうされた?」
「聖女を返して貰いたくて来た。聖女リリアをただちに王国に返還して貰う」
「「「「「!?」」」」」
と、その場にいた全ての者が驚いた。
「何を世迷言を」「自分たちで追放した癖に」「非礼にもほどがある!」「聖女様にもわが国にも失礼ではないか!」
「うるせえなぁ……雑魚共が!」
不満の声を聴き、アーシュ王子は自分の魔力を放出した。
噴出された禍々しい意思のこもった魔力が周囲を威圧する。
「「「「「ひいいいい!」」」」」
と臣下達は怖がる。
アーシュ王子に向かって、アレクサンドロス皇子が睨む。
「おい、アーシュ王子。皆を脅すような真似をするな!」
「脅す? 俺はただ、挨拶しただけだぜ」
「何?」
「自己紹介だよ、自己紹介。俺と戦ったらどうなるかを『親切』に教えてあげただけさ! 暴力なんて、ふるってないぜ!? ただ、『警告』しただけさ!」
けらけらと笑うアーシュ王子に、品位というものはまるで無かった。
ただ強靭な魔力が、彼の品位と評価を下げるということを彼は何も知らないでいた。




