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【第10話】休日デート

 帝都ヴァルファレンス、城下町。


 今日は休暇日。

 聖女あたしの初任務と神器授与を記念し、町には活気が溢れていた。


 皇子と一緒にあたしは町を散策中。


『聖女様、キマイラ討伐ありがとう』って横断幕。


 ……王国でのドラゴン狩りに比べたらあの任務さんぽは楽だったな。


 流石にドラゴン討伐は散歩だけだときつい。

 ドラゴンが住む場所の周辺を何日も慎重に散歩して浄化をしきって、その上で騎士団長のオレステイアさん達と組んで神器の加護を全開にしないと全員無事で帰ることなんてできなかった。

 他の聖女と連携をすることもあった。


 王立学園では「調子こくなよ」と言われるけど、あたしの人生ではドラゴン狩りをやってる時、別のドラゴンの群れに遭遇してしまった時が一番の任務成功だったな。

 あれを超えたベストバウトはない。

 あの時は死者が出ることを覚悟した。

 何とか全員無事だったけど、あれはもっと褒められてよかったと思うんだ。

 精鋭騎士の数よりドラゴンの数が多い中、死者ゼロ名で褒められなかったのは今考えればおかしい。


 それに比べたら、キマイラ討伐程度で喜んでくれるなんて帝国の民は純朴だなぁ。

 聖女に対する期待値が低いのかな?


 皇子があたしに、


「リリア様。どうされました?」


「ふぇ?」


「何か、考え事を?」


「いえ、その。この程度の任務でこんなに町でお祝いをされるなんて、申し訳ないなって」


「何を仰います。立派な成功ですよ? キマイラ討伐なんて大したものです」


「そうでしょうか?」


「はい。間違いありません」


 皇子はにこやかに笑う。

 皇子の隣は居心地がいいなぁ。

 優しい。

 承認してくれる。

 この居場所は、心地よい。


 私はアレクサンドロス皇子の隣を歩きながら、露店の香りに顔をほころばせていた。


「わぁ……焼き菓子の匂い、すごくいいですね」


「帝国一の菓子屋です。甘いものは……お好きですか?」


「好きですけど、こうやって歩いて食べるのは初めてかも」


 言いながら私はふと気づく。

 この人、私の好きそうな場所ばかり、うまく選んでる気がする。


(まさか……調べた?)


 皇子ははにかみ、あたしも笑顔で応える。


「この焼き菓子、初めて見ますね」


「確かに、ロールバクラヴァは聖女様がいた王国では焼かれてないかもしれないですね」


「聞いたことも無いですね」


「異国から伝わった焼き菓子をわが国風にアレンジしたものです」


「あれは?」


「あれはピタです」


「ピタ?」


「はい。中に具材を詰め込んだパンです」


 ……外国のことは何も知らないな。

 初めて見るものばかりだ。


「どれか、気に入りましたか?」


「あのビスタチオバクラヴァってのが気になります」


「いいですね。では……」


 と皇子が言って、一緒に入店。

 食べると、今までにない触感だった。

 薄いパイ生地、中には蜂蜜、ナッツも入ってる。


「いかがですか?」


「美味しいです」


「それは良かった」


 皇子は微笑む。

 男性の方と休みの日に過ごすこと自体が初めてだ。

 ちょっと緊張する。

 けど、楽しいな。


 ……しかし、皇子みたいな偉い人があたしなんかと一緒でいいのだろうか? とふと疑問が浮かぶ。

 政務であれ社交であれ勉強であれ、やること山積みだろうに。


「皇子」


「はい」


「皇子って偉いですよね?」


「国で二番目に偉いです」


「なら何で、あたしなんかに構っているのですか?」


 皇子は怪訝な顔で、あたしの顔を覗き込んだ。

 あたし、そんなに変なこと言った?


「……逆ですよ。皇子でもないと、聖女の側近なんかできないんです。貴方達は、戦略級にも政略級にも最重要の存在ですから」


「……」


 理屈では分かる。しかし、実感がどうも沸かない。

 王立学園ではそんな扱いを受けなかったからな。


 あたしに親の記憶はない。

 最初の記憶は、孤児院だ。

 物心ついてすぐ、聖女と分かった。

 その後、孤児院から王立学園に入れられてアーシュ王子のすぐ傍か、任務で騎士団の人達と一緒に過ごしてた。

 だから、普通に聖女がどう扱われるかなんて分からないのだ。

 教育より討伐任務に駆り出されることのが多かったしなー。


 あたしに分かるのはドラゴン狩りと騎士達との連携と散歩コースを見つけることくらいだ。

 あと、基礎魔法学くらい?


「実はプライベートな時間の過ごし方とかあまり気にしてこなかったので、どう過ごしていいか分からないのです」


「なんと。なら、これから作っていけばいいかと」


「……そうですね」


 あたしは笑顔で返す。

 帝国で、王国と違った穏やかな日々を過ごせたらいいな……。


 そう思ったとき。


 町の奥──帝国城門前に、異様な魔力を感じた。


「聖女様?」


 皇子が困惑してるが、気にしてる余裕はなかった。

 間違いない。

 聖女の探知力が、間違うはずもない。

 この魔力は……王国のアーシュ王子のものだ。


 帝国に、彼が来たのか……。


「皇子」


「何でしょう?」


「折角のお誘いですけど、皇帝陛下の宮殿に戻りましょう。おそらく、来客の対応をしないといけません」

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