深夜の訪問者
婚約記念パーティーに参加した日の夜のこと。
私がベッドに入り、眠りに就こうとした矢先のこと……
「調子はどうだ?」
「っ……!? フリク!」
フリクはいつも通り突然現れた。
「婚約記念パーティーでは大変そうだったね」
フリクはどこか他人事のように感じる言い方でそう述べた。
しかし、フリクの瞳の奥が少しだけ揺らいだようにも感じる。
私がベッドから上半身を起こすと、フリクは私の座るベッドの端に腰掛けた。
「クラヴィス・イージェルに出会えたのは幸運だったな」
フリクが月明かりに照らされている私の部屋を眺めている。
「クラヴィスには感謝しかないですわ……それでも、周りの者に助けて貰ってばかりの自分に嫌気が差すのです」
私に無理難題を押し付けたのはフリクであるはずなのに、全ての事情を知っているフリクにどこか安心感があって、私はついそう零してしまった。
フリクがどこか不思議で、それでいて優しい雰囲気であることも大きいだろう。
フリクは私の言葉を聞いて、視線を少しだけ私に向けたがすぐにまた逸らした。
「そこで自分のことを迷惑だと思うのは違うんじゃない?」
「え?」
「周りの者は……いや、マリーナの味方は、マリーナを助けたいだけ。マリーナの役に立ちたいだけ。君のことが大切で、好きだから。それだけだろう?」
部屋も暗いので、フリクの表情はよく見えない。
「きっと君もそれだけの愛情を返している。それに、確か君がクロルに言っていたんだろう? 『守り合えば、最強』だと。補い合うようなそんな関係でありたいと」
「君は気づいていないかもしれないけれど、君が知らないうちに周りの者を救っていることもある。安心したらいい」
私に不思議な課題を押し付けたのはフリクであるはずなのに……彼は今、私を安心させる言葉を並べてくれている。
「ねぇ、フリク。貴方は……」
今、フリクはどんな表情をしているのだろうか。
「私の味方なの?」
「俺が味方かどうかは、マリーナ次第だろう。俺は……」
言葉の後半は、フリクがわざと聞こえないほど小さな声で話したのだと思う。
「マリーナ、噂を消すのは簡単じゃない。嫌われ者の印象を変えることは難しい」
「だから、行動を起こすことだ。皆に『自分は噂のような人物ではない』と伝えるような行動を」
「マリーナが身をもって分かっている通り、噂は勝手に大きく広がっていく。それは悪い噂だけでなく、良い噂もだ」
フリクの言葉に答えようとした瞬間、もうフリクはいなくなっていた。
自分が味方であるかは私の行動次第と言いながら、まるで答えのようなヒントを残していく。
「フリク、貴方は一体何者なの……?」
誰もいない部屋で呟いた声は、薄暗い部屋に消えていった。