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馬車での会話

学園までの馬車には私とリーリル、そしてクロルが乗っている。


「お嬢様、何かあればすぐにリーリルに言って下さいね」


「分かっているわ」


「私も学園の中までついていくことが出来れば……!」


メイドは寮の中で主人の世話をすることが主な仕事なので、学園の中に入ることは出来ない。


リーリルがクロルを横目で見ながら、ため息をついている。


「というか、本来はクロルも学園の中までついて行けないはずだったのに、クロルは強引だから……」


「そういうリーリルも大分ゴネてただろ」


「まぁ、お嬢様も守ってくれるならなんでも良いけれど」


そう。クロルは基本的に貴族しか通うことの出来ない私の学園に伯爵家の次男であることを利用して入学した。


同い年であることもあり、テストの結果を受けて私と同じ学年から入ることが出来るらしい。


本来、護衛騎士は送迎の時しか主人のそばに居られない。


理由は学園の警備がしっかりしているからだ。


私はクロルに視線を向けた。


「ねぇ、クロル。本当に良かったの? 学園に入学すれば、貴方の大好きな剣術を学ぶ時間が減ってしまうわ」


「構いません。マリーナ様を守るために今まで頑張ってきたのですから。それに剣術を学ぶ時間は作ろうと思えば、どれだけでも作れますので」


クロルは当たり前のようにそう述べた。


そんな話をしているうちに、馬車は学園に繋がる門を潜り抜けた。


「もうすぐ着くのね……」


本当なら馬車から見える景色も、屋敷の外の景色も、全て輝いて見えてもおかしくない。


それでも、不安で景色を楽しむ余裕はなかった。


「全ての失敗した政策が私の案……我儘にされているのよね」


私の呟きにリーリルの表情は曇った。


「ええ。旦那様と奥様はお嬢様の悪い噂を利用して……どんな気持ちでお嬢様が噂を流したのか知りもせずに!興味すら持たなかった」


私の両親にフリクから言われたことは伝えていない。


私の両親はそんなことを聞きもせずに、私の評判が悪くなるとそれを利用した。


嫌われたかった私には、その行動は丁度良かった。


しかし国民からすれば、私は大悪女だろう。


「旦那様は課税が必要な時は、お嬢様のせいにしました。次の政策に必要だとしっかりと説明もせずに。お嬢様のことをなんだと思っているのか!」


「お父様は私を道具としか思っていないもの。お父様は私に興味も関心もないけれど、ユーキス国のために毎日働いている。そこは尊敬しているの」


「だからと言って、お嬢様を軽んじて良いわけではないです!」


「お父様にとって私はいつか政治の繋がりのためにどこかへ嫁がせる道具だわ。それまで生きてさえいればそれでいいの」


私の言葉にリーリルとクロルは顔をしかめた。


「あら、それでも私は幸せになるわよ? 私の幸せを願ってくれている者が沢山いるもの」


私は二人の手を取り、包み込むように握った。



「学園での生活も私は楽しむつもりしかないわ。毎日楽しんで、学んで、それで沢山の人に私のことを知ってもらう。沢山の人に私のことを知って貰えば、その分好いてくれる人もいるかもしれない」



私の言葉にリーリルは「当たり前です!」と声を上げた。


「噂によってお嬢様を嫌う者が増え、患者の人数が減ったことにより、流行病は(おさま)った。噂だけでお嬢様は全ての人に嫌われたわけじゃない。噂を信じない者もいた。それと同じように全員から好かれるのは無理です。それでも……お嬢様は魅力的です!本当に!お嬢様のことをしっかりと知っても、お嬢様を嫌う者がいれば、私からすれば見る目がないです!」


「ありがとう、リーリル。私、その言葉だけで頑張れるわ」


その時、ガタンと振動がして、馬車が止まった。


従者が馬車の扉を開ける。



「リーリル様、到着しました」



私が馬車を降りると、従者は深く頭を下げた。


この者も事情を知っている。


「私はこのまま屋敷に戻ります。お嬢様が沢山の人たちに好かれて帰ってくるまで、しっかりと屋敷を皆で守ります。それでももし辛くなったら、いつでも……」


その従者はわざと「帰って来てください」と最後まで言わなかった。


私が外に出た勇気を汲んでくれた。


それでも、最後まで「私の居場所があると伝えてくれた」のだ。


「本当にありがとう。折角だから、外での生活を楽しんでくるわね」


だからニコッと笑って、そう答えるのが一番の優しさだと思った。


馬車がいなくなり、後は学園に入るだけ。



「ねぇ、リーリル。クロル。私ね、自信があるの。優しい人たちに囲まれている自信が。だから、毎日笑顔で過ごしているわ。幸せだもの」


「だからね、私の笑顔を見せびらかすつもりで外に出る。私はこんなにも幸せですって。最高に魅力的な人たちに囲まれているのよって」


「何も心配しないでね」



そう言った私はどんな表情をしていたのだろう。


でも、もう決意は決まった。


その決意を持ち、私は学園に足を踏み入れた。


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