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秘密を明かす

その日の夜、私は何故かすぐに眠れなくてベッドに腰掛けながら月に照らされた夜空を眺めていた。




「久しぶり、マリーナ」




声のする方へ振り向くとフリクが立っていた。


「フリク……!」


「どうやら王子様が現れたみたいだね」


「そうですわね、まさにクラヴィスは王子様ですわ。しかし……」


「どうしたの?」




「私はお姫様ではありませんもの。まだ噂の悪女ですわ」




「学園での噂は変わってきただろう? それにマリーナが通うのは影響力のある貴族の通う学園だ。学園での噂が変われば、時期に他の場所にまで良い噂も広がって行くだろう」


「ええ。だからこれからも頑張るだけですわ」


その時、急にフリクが「あははっ」と吹き出すように笑った。


「フリク?」




「いや、マリーナ自身が婚約が嫌ということは全くないんだなと思って。それが全てじゃないの?」


「きっと相手が欲しいのは、マリーナの本心だけのはずだ」




「……フリク、貴方はいつだって私に助言……いいえ、優しい言葉をくれますわ。貴方は私に無理難題を言いながらも、結局はいつだって優しい。貴方は一体何を考えているのですか?」


「マリーナ、君が噂を変えて、国民に好かれるのはきっともうすぐかもしれない。王女が婚約を結べば、それだけで注目を浴びる。あとは君の努力次第だろう」


フリクの表情が月明かりの逆光でよく見えない。





「俺は、もうすぐ君に……真実を言わなければいけない」





「え……?」





「ねぇ、マリーナ。沢山の人に好かれていく君を見たかったのは、一体誰なんだろうね」


「どういう意味ですの……?」


フリクの表情は見えないのに、何故かフリクが泣きそうに見えた。






「私は君を……」






その後に聞こえた言葉が嘘だと思いたかった。


聞き間違いだと思いたかった。










「ずっと恨んでいたはずなのに」









そして、想像もしないような言葉をフリクは続けて述べるのだ。











「マリーナ、私は君の願いを叶えることは出来ない」










謎が解け始める音がする。


月明かりに照らされたまま、フリクがこちらに近づいてくる。



「フリク……?」



「君が国民に好かれても、私は君の願いを叶えられない」



フリクの言葉はどこか淡々としていて。




「君が私の無理難題を乗り越えたところで、マリーナの一番会いたい人に会わせることは出来ない」




「っ……!?」




「マリーナ、君が一番会いたい人は誰?」




「それは……」




フリクはそう問いかけながらも、私が一番会いたい人が誰か分かっているようだった。



「マリーナが一番会いたいのは、幼い頃に自分を助けてくれた少年。そうだろう?」



フリクの問いに私は小さく頷いた。




あの日……身体の弱かった幼い私が外に出た日。


リーリルと近くの森へピクニックに向かった日。


私はリーリルとはぐれて、そのまま倒れた。


しばらくして、目が覚めた私の下には……





頭から血を流した少年が下敷きになっていた。





どうやら私は体調が悪くて倒れた拍子(ひょうし)に崖から落ちたようだった。


泣き喚いて助けを呼ぶ私に何故かその少年は微笑んだ。




「大丈夫だから」、と。




それでも、近くに人を探しに行った私がリーリルを連れてその場所に戻るともうその少年は居なくて。









「……あの日、『弟』は偶然出会った君を救って、亡くなった」









フリクがそう呟いた声で私は顔を上げた。






「そして、傷を負って弱ったことで力が衰弱して、そのまま消えた。俺たちも万能ではないから」






フリクはまるで自分で自分を嘲笑(あざわら)っている様だった。


フリクが何を言っているのか分からない。


頭が理解しようとしてくれない。





「何を……言っているのですか……」





「つまり、君が一番会いたい人にはもう会わせられないということだ」





フリクは視線を落としたまま、話を続けていく。




「俺にとっては君は弟を殺した人間。ただそれだけだった。だから、国民全員に嫌われて仕舞えば良いと思って、無理難題を出したんだ」


「それでも、俺が間違っていたのだと思う……だって、当たり前だが君が弟を殺したわけじゃない」


「それに、国民に嫌われて屋敷から一歩も外に出れなくなった君は、使用人の前では笑顔なのに、部屋に一人になると寂しそうな顔を浮かべていた……決して涙は溢さずに。そんな君を見ていて、俺も気持ちが変わっていった」


「だから、大悪女になった君に『好かれてきて』なんて意味の分からない課題を出したんだ」




フリクが私の頬に手を伸ばしたが、触れる直前で手を止める。





「俺が君に触れる資格はないな」





フリクはそう述べて、悲しそうに笑った。





「ねぇ、マリーナ。これで俺が君に会うのも最後だろう」


「何か言いたいことはある?」





フリクがわざとらしく明るい声を出した。


頭が整理出来ない感覚がするのに、どこか冷静さが戻り始めている自分が怖かった。


それでも、この機会を逃せば、もう私がフリクと話せることはないだろう。






「フリク、貴方はまだ私のことを恨んでいるのですか?」






「恨んでないよ。本当に」






ゆっくり消えていくフリクの姿と合わせて、声も小さくなっていく。







「マリーナ、ごめんね。君を国一番の大悪女にしたのは俺だ」







それだけ言って、フリクの姿がもう見えなくなっていく。





「待って下さい!」





私の大きな声でフリクが消えて行くのが一瞬止まった気がした。





「貴方が何を言おうと、私を大悪女にしたのはフリクではない。フリクの手を取ると決めたのは私です」


「それに私は国一番の悪女で終わるつもりはない。国一番の最高な王女になりますわ」


「これで会うのが最後でも構いません。それでも、どこかで見ていて下さい。私と取引をしたフリクには、私がどんな王女になるのか見守る義務がありますわ」





私の精一杯の勇気はフリクに届いただろうか。


それでも、最後にフリクの声がもう一度聞こえた気がした。







「マリーナ、幸せになって」







言葉に出来ない気持ちが溢れてくるのに、どうすることも出来なくて。


それでも、もう振り返ることもしない。


前に進んでいくしかない。


だって、きっとフリクもどこかで見守っているから。


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