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東京妖刀奇剣伝  作者: どるき
出会った彼女に導かれ
11/40

朝食

 時刻は朝の6時。

 ただでさえ眠気の残る早朝で、ましてや昨夜は初めてのひとつ屋根の下への緊張で寝不足を抱えていた甫は老婆の声に叩き起こされた。


「早く起きて準備しなさい。遅刻厳禁ですよ」


 彼を起こした相手は律子の祖母、真田天樹。

 厳密には孫娘の律子を起こすついでなのだが、これから甫も探偵助手として同行する必要があるので同様に惰眠を貪る暇はなし。

 それに本来ならば高校生として普段から早寝早起きをしているため、寝不足でなければ普段と起きる時間に大差はなかった。


「──というわけだから、左くんに失礼がないようにね」


 まずは先に着替えと身支度だけを済ませて、早朝から営業している駅前のカフェチェーン店に移動した。

 そこで朝食を兼ねた小一時間のミーティングを行い、二人は天樹から早起きの理由を教えられる。

 今日が実地研修としては初めての仕事という不安と、それ故の説明不足感で甫はたどたどしい態度なわけだが、一方で律子は祖母からの依頼に少し不満げになっていた。


「今まで特別扱いはしないって言っていたのに、どういう風の吹き回しよ」

「ようやく貴女にも助手が付いたのだから、貴女なら出来ると見込んでの話よ」


 天樹としては以前も今回も変わらずに特別扱いするつもりなどなく、開業から今までの2ヶ月で一切彼女に仕事を依頼しなかったのは律子には助手となる士が居ないため。

 元を辿れば士を雇わずに見切り発車で開業し、そのままズルズルと待ちの姿勢で助手を探さなかった律子の不手際が理由である。

 今まで律子一人では不安定なトランスで妖刀を探すのもあやふやだったわけだが、何より見つけようとも実際に妖刀を処理できる助手が居ないのであればどうしようもなかった。

 今回、天樹は実地研修生という名目で甫を助手につけたのは明確な手助けではあるが、こうやって尻を叩かなければ怠惰なままだった律子には皆まで言わずに「貴女ならは出来る」とだけ背中を押す。

 天樹が信じているのは運命糸で結ばれている甫と二人であれば、凶悪な連続乱心事件の黒幕を追い詰められるということ。

 自分のトランスなど老いて枯れたと思っていた天樹にとって、帯刀許可証試験中に垣間見た二人の力の共鳴──いわゆる相性の良さは、下品な言い回しをすれば濡れたわけだ。


「だから……わたしは担当者に貴女たちを引き合わせたら、それ以上、手を貸さないわ。二人で犯人を捕まえて、真田探偵事務所のデビュー戦を飾ってみなさいな」

「お祖母ちゃんがそこまで期待しているのならやってみるわ」

「引き受けてくれてありがとう。もし拒否したら……いい加減に貴女の事務所を取り潰さなきゃいけなかったところよ」

(というか……この会話内容から察するに、律子さんって今まで探偵として活動したことがなかったの⁉ あれだけ自信満々なのに)


 律子はこれまで天樹が役員としての権限で特別扱いをしないという約束は、祖母が自分の探偵活動を認めている証拠として受け止めていたからこそ、今回の祖母からの仕事の斡旋に不快感を示していた。

 しかしこの依頼が能力を認めたうえでのモノであると説明されれば素直に従う。

 そんな二人の関係を知らない甫からすれば、今回が初めての依頼であることには驚きと不安しか残らない。

 こんな上司で大丈夫か。

 そもそも実地研修とは実際に士として最前線で働くことで仕事のアレコレを学ぶ場ではないのか。

 普段は学生だからこそ、いきなりのぶっつけ本番に甫が引くはさもありなん。

 そんなプレッシャーに押しつぶされそうな彼も一皮むけば年頃の男の子。

 惚れた相手には弱かった。


(とりあえず向こうについたら先輩方の言う通りにして……)

「フフフ」

(天樹さんの今の笑いは何?)

「不安が顔に出ているわ甫くん。最初の研修がいきなりの大仕事で驚いているようだけれど心配要らないわ。貴方なら大丈夫」

「そうそう。昨日だって憑き物になった人を軽く蹴散らして助けたんだし。ソコに名探偵であるわたしの推理力が組み合わされば鬼に金棒ってやつよ」

「わわ⁉」


 励ますついでに身体を抱き寄せた律子が触れただけで甫は心臓が飛び出したかのような衝撃を受けてしまった。

 一瞬だけだが不安ごと意識が消し飛んでしまうほどの衝撃。

 律子の柔らかい身体が沈む感触だけで初な15歳には果てるほどの刺激だった。

 無論律子としては、この触れ合いはそんな少年の男の子な気持ちなど考慮していない、単なる友愛と激励のスキンシップにすぎない。

 甫の顔色に対して律子の観察眼はまだまだ鈍いなと、天樹は残りのコーヒを静かに啜った。

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