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18ページ/ポイントゲット大会

 

 八神麗緒は腕時計に視線を落とした。

 星花祭を無事に終えた翌週末、もみじの提案通り出かける約束をした。土曜日だし駐輪場が混んでいてはいけないので徒歩で駅まで来た。ちょっと早く着きすぎただろうか。待ち合わせまであと十分もある。

 そわそわしてきた。最寄り駅である学園前駅は平日も休日も人が多い。待つのはいいのだが、柚原七世のようなピンク脳な生徒に出くわす可能性もあるからだ。やましいことなど何もないのに挙動不審になってしまう。

「麗緒先生、お待たせしました」

 背後から声をかけられてビクッと肩をすくめる。振り返ると白いワンピース姿のもみじが立っていた。秋晴れの今日にぴったりなさわやかな装いだった。

「歩きだったんで早く着いちゃうかなーと思ったんですけど、麗緒先生も早かったんですね。お待たせしちゃいました?」

「いや、大丈夫です。待たせるより待つほうが気楽ですし」

「はい、そこ!」

 早押しクイズのように、もみじがぴょこんと人差し指を立てた。突然のリアクションにわけの分からない麗緒は「はい?」ときょとん顔だ。

「そこです! うーん、さすが麗緒先生ですね。会って十秒も経たないうちに一点取るとは」

「な、なんですか一点って……」

「言ったでしょう? 麗緒先生のいいところを私が教えますって。待たせて平気な人もいるのに、待つほうが気楽っていうのはとってもいいことです! まずは一点げっとです。おめでとうございます」

「は、はぁ……ありがとうございます……」

 自分だって時間前に来たじゃないか、といいうツッコミは飲み込む。ネガティブ脱出計画を企てられた時に言われた気もするが、まさか点数制だったとは……。

「些細なことだけど大事なことです。あとは……」

 もみじの視線が麗緒の全身を行ったり来たり。一歩後ずさりたい気持ちを押さえ、麗緒も改めて自らのファッションをチェックする。

 乾いても元お嬢様育ちな麗緒なので、干物スタイル以外のプライベートではきちんとした有名ブランドの服を着こなしている。家庭環境や両親の職業などは話していないので、干物スタイルと通勤スタイルしか目にしたことのないもみじにとっては意外だったようだ。

「うん、同じブランドでコーディネートされてて素敵です。カラーも秋らしくていいですね!」

「あっ、でも今日は暖かいからブラウンはちょっと重たかったかなぁ……」

「いーえ、全っ然問題ないです! ネガティブ発言はポイントマイナスになりますよ?」

 ぶぶーっと指で×を作るもみじ。どうやら加点だけでなく減点もあるらしい。初っぱなから何の説明もないポイントゲット大会が勃発したが、もみじはにこにこと楽しそうだ。

「じゃあ行きましょうか! まずは映画館です。麗緒先生がお好きそうなタイトルのチケットを取っておきましたので」

 実は麗緒は、今日のスケジュールを一切知らされていない。事前に知らされたのは集合時間と、ハイキングや山登りではないことくらいだ。後者は当日のファッションに影響するので告知してくれたのだろう。

 自分が好きそうなタイトルとはなんぞやと考えながら、るんるんなもみじの隣を歩く。到着するまで明かすつもりはなさそうなので、麗緒もあえて尋ねなかった。

 下り方面の電車内は、そこそこ混雑していた。ドアと手すりの間に位置させて七点、バランスをくずしたところを支えて五点を加算された。

 どうやら一点ずつではないらしい。基準はもみじスケールなので、ポイントの大小が不明だ。何点満点で合格なのか、一般人の平均がどれくらいなのかは聞くまでもない。

「やっぱり紳士ですねぇ。普通、女性が女性にはしませんよ? まぁ麗緒先生なら、この程度は想定内でしたけど」

「いやいや。倒れそうになったら誰だって支えるでしょう、普通」

「それを普通と言えるのが麗緒先生のいいところです。はい、この調子で麗緒先生の『普通』を見せつけてくださいね?」

 このままいちいち褒められるのか? 慣れないお褒めの言葉ラッシュにむずむずしながら、めんどくせー……と苦笑する麗緒だった。

 降りますよ、と促されたのはタワーマンションが並ぶターミナル駅。使い慣れている駅なのか、もみじはすいすいと改札を抜ける。麗緒は見失わないように注意し、きょろきょろしながらあとを追う。どうやら隣接する駅ビルへ向かっているらしい。

「ここです」

 足を止めたのはエレベーターホール。ほぼ女性だらけ。中には男女のカップルや家族連れもいるが、とにかく店内はにぎやかだ。

 フロアガイドを見上げた。九階建ての一番上のフロアがシアターになっている。八階がイベントスペース、七階がレストラン街、それ以下にはレディースファッション店やアクセサリー専門店、下層にはブランドコスメやスイーツ店と、いわゆるシャワー効果を狙った商業施設だ。

「ほへぇ、こんなでっかいビルがあったなんて知りませんでしたよ。もみじさんはよく来るんですか?」

「高校生の時、帰りに友達と遊びに来てたんです。当時はそんなに遊ぶお金もないから、専らウィンドショッピングだけでわくわくしてましたよ。『大人になったらこういう服買ってみたいねー』って洋服宛てがいながら」

「へぇ、かわいい! 学校帰りに寄り道とか憧れたなぁ」

「あはは、かわいくはないですよ。学校はもっと西なんですけど、定期で降りれるからたまに来てた迷惑なお客です。あ、買わないからお客さんでもないですね! 麗緒先生は寄り道せずに真っ直ぐ帰る真面目ちゃんだったんですか? それとも、部活が忙しくて寄る時間がなかったとか?」

 麗緒は返事に困り、少し唸る。高校時代の麗緒には、遊ぶ暇も余裕もなかったのだ。県内で星花女子学園と一・二位を争うお嬢様高校に入学してからは習い事も全て辞め、自宅でひたすら勉強ばかりする毎日だった。寄り道も部活も憧れでしかない。

「……ははは、要領が悪かっただけですよ。そんじゃ、映画のあとはもみじさんが昔立ち寄ってた店に連れてってください。大人になったもみじさんが着たい服買いましょ? 誕生日プレゼントってことで」

 もみじのアーモンドアイが見開いた。

「なんで私の誕生日知ってるんですか?」

「え? だって自分で言ってたじゃないですか。先月、あたしが夜中にニアマート行った帰り、『来月で二十三です』って」

「すごい! よく覚えてましたね! びっくりしたので二十三点あげます!」

 一般的というより、完全なるもみじスケールでのボーナスポイントが加算された。しかも二十三という数字を重ねてきたあたり、かなりのどんぶり勘定である。

 こうして、麗緒ともみじの『紳士ポイントゲットde自分を好きになろう!大会』が始まった。



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