一話 ただの日常
晴れて恋人同士になった鳴華と真箏……だったが、真箏はこれってマジ? と現実感がないままだった。
恋人なんてできたことないし、ましてや同性の、年下の女の子……誰にも相談もできないし、と、春野真箏こと、「私」はもんもんと悩んでいた。
「マーコ。妹ちゃんよ」
そんな風に悩んでいても……廊下でそっと待っていてくれる彼女……桔梗宮鳴華ちゃん──私の、妹分にして、恋人だ──が、はにかんだ表情で手を振ってくれている。それだけで、私はもうなにもかもどうでもいい気がした。
「鳴華ちゃん! ごめんね、待たせて。今日部活無いから、一緒に帰ろ」
「はい。お姉様」
鳴華ちゃんはにっこりと笑顔になって、小さく頷いてくれる。
こんな可愛い子が私の、彼女?
私は首をひねりたくなるくらいだった。
「お姉様。膝の調子は、いかがでしょうか」
「え? うーん。実は、もうそろそろジャンプの練習でもしましょうかって言われてて……」
靭帯の損傷はだいぶ回復傾向とのことだったが、だからと言って……あの痛みをもう一度経験するのはごめんだった。バスケは大好きだし、今後もずっと付き合っていきたいけど、もう苦痛を堪えながらバスケをする気にはなれない。
鳴華ちゃんはそんな私の微妙な表情に気づいたのか、眉根を寄せて、心底心配している声で言った。
「お姉様、無理だけはしないでください。私、お姉様が元気で、大好きなバスケットボールを趣味でも楽しめれば、それが一番だと思いますから」
「あ……あはは。ありがと、鳴華ちゃん」
眉根をよせて、本気で心配してくれている彼女の様子が……可愛くて可愛くて。
私は思わず、ふいうちでほっぺにキスをした。
「あッ、お、おねえ、さま」
「えへへ。……だーいすき、鳴華ちゃん」
鳴華ちゃんは真っ白な肌を耳まで真っ赤にさせて、両頬に手を添えている。
そんな仕草も可愛くて可愛くて、私は幸せな気分で胸がいっぱいになった。
これは、私と鳴華ちゃん……真箏と鳴華の……二人が付き合いはじめてから、ただイチャイチャしているだけの記録で、ある。