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[間話]エルフの掟


 深い森に続く入口にその村はあった。

[リーデン村]と呼ばれるその村の人達は、排他的で、村人以外の人が訪れると村全体が極度に緊張する。

 そんな村にバルーダとガルーダの双子の兄弟は生まれた。

ベクトラムが普及させた小麦とは関係なく、自然妊娠で生まれた双子は、村で100年ぶりに生まれた赤子だった。


「バルーダ、ガルーダ!外に出るなら、きちんと幻惑かけるんだよ!」


「はーい、母さん」「わかってるよ、母さん」


ハーフエルフのバルーダとガルーダは、幻惑の魔法で特徴である尖った耳を普通の魔人の耳に変えると外に飛び出した。


 そんなリーデン村でも半年に一度、商隊が来て露天で店開きするのだ。

その時ばかりは、排他的な村人も買い物に集まって、森で採れた貴重な薬草を売り、露天商が持って来る商品を購入していたのだ。


「おじちゃん、このナイフっていくら?」


「おや、子供が買い物に来てくれるなんて嬉しいねえ。そのナイフなら銀貨50枚だが、君達とは、これから長いお付き合いになるから45枚に負けとくよ」


「うん、でもこれから長い間買い物に来るんだからさ、30枚に負けてよ!」


「こりゃ将来大物になりそうな坊ちゃん達だな

仕方ない、40枚でどうだ!」


「もう一声!」


「37枚!これ以上引いたら足が出ちまうよ!」


「やった!ありがとうおじちゃん、じゃ37枚ね!ナイフの鞘も付けてね!」


そうやって手に入れたナイフを持って、バルーダとガルーダは森に入った。


「おい、注文した物は手に入ったか?」


木の陰から出て来たのは、尖った耳を持つ美しいエルフの青年だった。


「うん、ナイフ1本銀貨37枚だったよ」と言ってバルーダが青年にナイフを渡すと彼は40枚の銀貨とキラービーの蜂蜜を1瓶バルーダに渡した。


「やったー!キラービーの蜂蜜だ!ありがとう!」


バルーダとガルーダは、そう飛び跳ねながら村に帰って行った。


 排他的なリーデン村には秘密があった。

リーデン村の人々は、全員ハーフエルフで、リーデン村の奥に広がる深い森には、純血のエルフだけが暮らすエルフの里があった。

ハーフエルフが住むリーデン村は、純血のエルフだけが住むエルフの里の隠れ蓑。または捨て石となる役目を帯びている村だったのである。

ハーフエルフの彼らは、エルフの特徴である尖った耳は持っていたが、純血のエルフが持つ魔力には遠く及ばなかった。

 エルフの里の住民は、森から出るのを極度に嫌がるが、エルフの集落だけで全ての物資を調達する事はできない。

 そこで外界との間にリーデン村を置いたのだ。

エルフの里は里自体に幻影の魔法がかけられ、深い森の中にしか見えず、そこにエルフが住んでいるとわからないようになっていた。

 リーデン村に住むハーフエルフが幻惑の魔法で普通の魔人の姿になって、外界との取引を行う。

もし外界から攻められたら、リーデン村は犠牲にしてでもエルフの里を守る。純血のエルフを守る為に、そう何千年もエルフの掟として伝えられて来たのだった。


「おっちゃん、このキラービーの蜂蜜、いくらで買い取ってくれる?」


双子は蜂蜜を金貨1枚で売ると、喜び勇んで帰り母親に金貨を渡した。


「これで新しい服が買えるね。もうこの服小さいからツンツルテンで恥ずかしいよ!」


 双子だから子供服も2枚づつ用意しなければならない。着古した大人の服を仕立て直すにも限度があり、成長期の彼らはいつも小さい服を着ていた。だから、エルフの青年から得た蜂蜜を売って、服を買ってもらう事で決まっていたのであった。

里に住むエルフは外に出ないから、いつでも取れる蜂蜜が高く売れる事を知らないのである。


「知らないって罪だよな。自分で蜂蜜売ってナイフ買った方が断然得なのに、俺達を通して買うなんて!」


「そうそう、俺達は儲かるから良いけど、里の奴ら馬鹿じゃないの?」


 調子に乗る双子に母親は雷を落とした。


「馬鹿言ってんじゃないよ!ここにエルフが住んでますってバレたら、魔力が高くて姿が美しいエルフは捕まえられて売られてしまうじゃないか。

おまえ達もハーフエルフで魔力が高いって事を忘れたらいけないよ!尖った耳は隠しとくんだよ!」


「はーい」叱られた双子は、そう返事をすると外で遊ぶ事にした。


「バルーダ、ガルーダ、手が空いていたら、この荷物を里の受け取り場所に配達してくれないか?」


 里の受け取り場所は、わざと里から離れた場所に作られていた。注文があったハサミや針の裁縫道具を配達してくれと頼まれた双子は迷った。

 隊商の中には、珍しい曲芸をする曲芸師の出し物がある。今からその出し物の時間なので、2人は見に行きたかったのである。

 でも今の時期は、荷物の受け渡し場所の近くにプリーメラと言う甘い実が成るのを2人は知っていた。


「配達してから寄ったら、甘いプリーメラの実が食べれるぞ」


 ガルーダは、去年食べたプリーメラの実の味を思い出して、バルーダを配達に誘った。

バルーダは、曲芸を取るか甘いおやつを取るか悩んだ。


「でもあそこは里の近くだから、あまり近寄ると怒られない?」バルーダが聞いた。


「里の奴等にバレないよう静かに行けばバレないよ。隊商が帰る頃には、鳥に全部食べられているかもしれないぞ」


 しばらく考えていたが、2人は隠れてプリーメラの実を取りに行く事にした。


「あった、あった!」


 荷物を配達した帰りに行った場所には、プリーメラの赤い実が鈴生りで取り放題だった。

彼らは美味しい実を食べるのに夢中で、周囲に気を配るのを完全に忘れていた。

彼らが口いっぱいに実を頬張っていると、突然後から羽交締めにされ口を塞がれた。


「うぐうぐぐ…」


 バルーダもガルーダもジタバタ抵抗するが、大人の力で拘束された身体はびくともしない。


「助けて!」一瞬の隙を見てガルーダが助けを呼んだが、「無駄だ、この辺りに誰もいねえ」と頬を叩かれて黙らされた。

 その声は、蜂蜜を売った露天商の男の声だった。


あの男が人攫いの一味だったのか…と後悔したが、もう遅い。

バルーダもガルーダも猿ぐつわをされ、袋に入れられると荷物のように担がれて馬車に運ばれた。

そして人知れず村から運び出されたのである。


「っていうわけで俺達攫われて来たんだ」


 その言葉にソフィアもトルクも悲しそうな顔で彼らを見ていた。


「でも、隊商がいる時に子供がいなくなったら、犯人だってわかりそうなものじゃない?」


「うん、場所が違ってたら助けられていたかもしれない。でも俺達プリーメラの実を食べるのに夢中になってて、エルフの里の入り口まで来ていたんだ。

捕まえられた時に、近くに里の人の気配も感じたけど、絶対に里の場所を知られたらいけないから、助けてもらえなかった。でもそれが決まりなんだ。

リーデン村は捨て石。ハーフエルフを犠牲にしてもエルフの里を守る。それがエルフの掟なんだよ」


 エルフの里の場所がバレたら皆を危機に陥れる所だった。

自分達はもう家には帰れないだろうけど、エルフの里は守られた。だから良いんだ…とバルーダとガルーダは呟いた。






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