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[間話]鳥の王

閑話休題です。使い魔カークのお話。

 

 魔王ベクトラムの使い魔カークは、鬱蒼とした森の高い木の上で生まれた。

 その森は魔鴉の営巣地で多くの鴉の巣があった。

魔界で魔人の子供があまり生まれないように、高い魔力を持つ魔鴉も卵から雛が孵る確率は少ない。

その代わり、生まれた鴉は200年は生きて、知能も高く、人と話す事ができた。

 

 まだ卵から孵ったばかりで、あまり目がよく見えないカークは、巣の中で餌を与えてくれる親を待っていた。

 しかしその日は親の帰りが遅かった。

腹を空かせたカークは、巣の中を動き回っているうちに巣から落ちてしまった。


「ピーピー、ピーピー」


 目がまだあまりよく見えないから、明るい方向にヨタヨタ歩いていると、「ピーピー」と声が聞こえてきた。

 カークが声のする方に歩いて行った。

すると同じような魔鴉の雛がいるのがわかった。

 カークが念話で「どうしたの?」と聞いてみると

その雛も「巣から落ちた」と言うではないか。

「僕も巣から落ちたんだよ。お父さんもお母さんも帰って来ないからお腹すいちゃった」

「私のところも誰も帰って来ないの。どうしちゃったのかな?」

 その子の親も帰って来ていないようだ。

2羽の雛は身を寄せ合って親の帰りを待つ事にした。


 夜になって朝が来て、また夜になって朝が来た。

お腹が空きすぎて動けなくなった雛達の耳に「バキバキっ」と落ちた枝を踏む音が聞こえた。

 カークは誰?と相手を確かめようとしたが、何日も何も食べていない身体は動く事ができない。

諦めて目をつむりじっとしていた。

 すると、「ここにいたのか」と声がして、カークは大きな手に包まれ持ち上げられた。

「こっちにもいたわ」という声がしてもう一羽の雛も持ち上げられたのがわかった。


「暖かい…」その大きな手はとても暖かくて、気持ち良くなったカークは、その手に包まれて眠ってしまった。


 カーク達は、寝ている間に[魔王城]と呼ばれる場所に連れて行かれ、起きるとミミズをすり潰した美味しいご飯を食べさせてもらった。

 数日経つと、2羽の雛は元気になって、「ピーピー」と元気に動き回れるようになった。

 目も完全に見えるようになった彼らは元気いっぱいだ。部屋の中を走り回って遊んでいた。

 するとそこにカークを助けた人達がやって来た。

元気良く走り回る雛を見て、「もう大丈夫そうだな」と微笑んだ。

そして、2羽の雛を両手に乗せると頭を下げた。


「すまん、おまえ達の親は、私が翼竜を倒そうと放った雷魔法に巻き込まれて亡くなったのだ。

魔鴉の親が、最期に「雛を頼む」と言って息絶えたので、営巣地に行っておまえ達を探していたんだよ。見つかって良かった」と謝罪した。


 親が帰って来なかったのはそんな理由があったのか…とカークが思っていると、男は言った。


「おまえ達の面倒は私が責任を持って見るからな。私はベクトラムと言う。この城の主で魔王をしている」


「あらベクトラム、こっちの子は私がもらうわ!そっちは雄でこっちの子は雌みたいだもの。良いでしょ?私の名前はミュリアよ。よろしくね」

と女性は、もう一羽の雛を手に乗せて羽根を優しくなでた。


「おまえの名前は…カーク…。ほう、もう念話が使えるのか。そしてミュリアが抱いている方が…ベーテ…。ベーテと言うのだな。よろしくなカークとベーテ」


「あらかわいい名前ね。ベーテもカークもよろしくね」とミュリアも嬉しそうに言った。


それから2羽の鴉は、魔王城で元気に暮らし始めた。


 ベクトラムは、朝カークの念話で目を覚ます。


「ピー、ピピー!」(まおうさま、おきてください。あさですよー)


 カークの声で目が覚ましたベクトラムは、カークの頭を撫でてベッドから身を起こす。

カークの声は寝起きに優しいと、早起きのカークはベクトラムの起床係になったのだ。

そしてベクトラムは、顔を洗って服に着替えた。

 次に食堂に行く前に庭に降り、庭師のサムルに声をかけた。


「魔王様、これがカーク様の朝食になります」


サムルが差し出した木の皿には、色とりどりの虫の朝食プレートができていた。


「今日は丸々としたクジラ虫が水蓮の葉を食べておりましたのでお皿に加えてみました。赤味が多いですが、気に入っていただけたでしょうか?」


「ピー!」


「気に入ったと言っている。サムルありがとう」


「いえ、気にいっていただけたなら良かったです。明日はゼンマイ花が咲きそうなので、地面蜂の幼虫がたくさん来る事でしょう。今の季節しか食べられない珍味ですから多目にご用意させて頂きます」


「ピー!」


 カークは喜びのダンスを踊ると、朝食プレートを美味しそうに啄み始めた。

その様子を満足そうに見て、自分も朝食を摂りに行くのが、ベクトラムの日課になっていた。


 ベクトラムは執務室に入ると夜中まで出て来ないので、カークはとても暇だった。

だから部屋から庭に降りてお昼寝をしていた。

 すると、そこへたくさんの羽ばたく音がして、大きな鳥達が降りて来たのである。

 ビックリしたカークは飛び起きて、大きな鳥達を見上げた。


「見てくださいガロン様、こんな所にチビ助がいますぜ」


「魔王城にこんなガキがいるなんて。ここはガキの遊び場じゃないんだ。母ちゃんの所に帰れ!」


 大人の鳥達は、カークを羽根で転がし始めた。


コロコロコロ…コロコロコロ…


 「おっもしれー」大人達は転がる雛が面白いのか、あっちに転がし、こっちに転がされと、カークは目を回した。


「ピピー!ピピー!」カークが嫌がっていると、大人の鳥達でも一際大きい鳥が彼らを止めた。


「やめよ!その小童には魔王様の守護魔法がかかっている。魔王様の怒りを買うとマズい」


「えっ、こんなチビがですか?ガロン様!」


 大人達は埃だらけになったカークから、ようやく離れた。


「チビ、ガロン様に感謝しろよ!ガロン様はな、ケルベロス族の族長、ザスティス様の使い魔だ。

ガロン様がいらっしゃらなかったら、おまえなんか一飲みにしていたぞ!」


「行くぞ!」そうガロンは言うと空に羽ばたいて行った。

取り巻きの大人達も後を追って羽ばたいて行った。


カークは悔しそうに飛んで行くガロン達を見ていた。



 カーク達が魔王城に来て、10年の月日が過ぎた。

成長して、羽根も黒く艶々に輝き、カークはベクトラムの使い魔として立派に働くようになった。


 (まったくベクトラム様は働き過ぎだぜ…)

カークは、休日も無く、朝から晩まで働くベクトラムの身体を心配していた。

今日もベクトラムの指示で、赤光熊の被害を受けた村に書類を配達している所なのであったが、村長の要請次第で、明日からベクトラムが一人で討伐に向かうらしい。


(なんでベクトラム様が一人で討伐しなきゃいけないんだ。ベクトラム様の雷魔法一発で全滅させられますから、お一人で大丈夫でしょうと言う執政官の言い分はおかしくないか?)


 カークがぶつくさ言いながら村に向かって飛んでいると、たくさんの禿げ鷹が飛び回っているのが見えた。

(何か獲物が弱っていくのを待っているのか?)

 カークは気になって下の方に降りてみることにした。

すると、そこには立派な大きな鳥が、バタバタもがいてるのが見えた。

(うん、あれはガロン様?)


 カークが近くに行くと、ガロンの左の羽根が傷ついて飛べなくなっているのが見えた。 


「ガロン様、どうされたのですか?」カークがガロンに近寄ると、ガロンは苦しそうに言った。


「魔王の所のチビ助か、久しいな。この池で水を飲んでいたら、ちょうど翼竜の奴らが水浴びに来て、襲われて羽根が傷ついてしまったのだ。回復魔法で少しずつ治しているのだが、禿鷲の奴らが交代で襲って来るから、なかなか回復ができないのだ。おまえもやられないうちに早くここを離れよ」


 弱っているガロンを狙って禿げ鷲が交代でやって来て、ガロンを襲っているらしい。

禿げ鷲が休み無く攻撃してきたら、ガロンも回復する時間が取れないだろう。


 そう言っているうちに、また禿鷲がガロンを目掛けて攻撃してきた。カークがそれを庇うと、カークもターゲットになったようだ。2羽、3羽同時にやって来るようになった。


(これはやばいな。何羽も同時に来られたら逃げられない)


弱っているガロンに3羽同時に来た。カークは、襲って来る禿げ鷲に咄嗟に威嚇をした。

すると、3羽の禿げ鷲が身体が硬直して空から落下したのである。


「何っ!」


 襲われると身構えていたガロンは、驚いた顔をしてカークを見た。


「今のはおまえの魔法か?」


「えと、思わず威嚇したらできたんですが、私の魔法なのでしょうか?」


「あの木の上にいる奴らに向けてやもう一度やってみよ」


見ると木の上にも20羽くらいのの禿げ鷲が止まっているのが見えた。

カークが、木の上に向けて威嚇をすると、禿げ鷲がバタバタと木から落ちて来た。


 カークも驚いていると、ガロンが動かない身体を引きずってカークの前で頭を下げた。


「鳥の王、カーク様、今までのご無礼お詫び申し上げます」と謝罪した。


「待って下さい。鳥の王って何ですか?そんなの知らないんですけど」


 カークが戸惑ってガロンの方を向くと、ガロンが言った。


「私も昔、親に聞いたのですが、全ての鳥を従える

[鳥の王]が現れる時があると。

[鳥の王]は、威嚇すれば全ての鳥を行動不能にする事ができ、全ての鳥に命令を出す事ができるそうです。人の言葉を理解でき、その知能は賢者を凌ぐと聞いております」


「え〜、やめてくださいよ。鳥の王なんて俺面倒くさいからやりたくないですよ」とカークは首を振った。


「やりたい、やりたくないではないのです。あなたには、それだけの能力があるという事です。

全ての鳥はあなたの命令を拒否できないのです」


 ガロンはそう言うと自らも頭を下げた。

 

「ガロン様、頭を上げてください。俺はこの間ようやく10才になった若造です。

ガロン様のような年長者に頭を下げられと困ります。いつもの調子で喋ってくださいよ」


カークの懇願に、ガロンもようやく「わかった」と言ってくれた。


「しかし、今[鳥の王]が魔界に現れるとはな…。

魔界はこれから戦いの場になりそうだ。

魔王ベクトラム様の側にあなたがいる事で、どう関わって来るのか私にはわからないがな。

しかしカーク殿、あなたに与えられた力は非常に大きい。あなたの動きで魔王様も、魔界すら未来が変わる事でしょう。どうか、慢心されませんよう」


「ガロン様、教えて頂きありがとうございました。

ではお身体をお大事になさってください」


そう言ってカークはガロンの元を飛び去った。

[鳥の王]の力をどうやって使うのかまだよくわからない。

 しかし、ベクトラムの味方があまりに少ない魔王城で、この力がベクトラムの役に立つならとても嬉しいとカークは思った。





















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